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経理業務のデジタル化とインボイス制度、電帳法への対応

2022.08.31
オフィスのミカタ編集部
国税庁長官官房企画課企画第一係長 小松 甲太朗 KOMATSU Kotaro
国税庁長官官房企画課企画第一係長 小松 甲太朗 KOMATSU Kotaro

バックオフィス業務のデジタル化が促進されている中、特に注目されているのが、経理業務のデジタル化だ。また、経理担当者にとって重要なインボイス制度や電帳法への対応も控えている。今後、経理担当者はデジタル化やインボイス制度、電帳法にどのように対応していくのか、国税庁長官官房企画課企画第一係長の小松氏に話を伺った。

デジタルで経理を楽に

経理業務では請求書や領収書に支払明細書など、「紙が多い」と感じたことはないでしょうか。最近では「〇〇書の整理のために出社しないと」なんて声も聞こえてきます。実は税務署も似たようなところがありまして、申告書や届出書などさまざまな紙が日々提出されており、「全部デジタルになったら楽なのに」と思うことがあります。
経理業務もデジタル化すれば楽になると思います。紙の場合、部署間の回付やデータの入力、ファイルへの編てつや保存などの作業が必要になりますが、デジタルであればそれらの作業が省略できます。それからもう一点、デジタル化の良いところは、誤りが生じにくいこと。経理業務は数字を扱うことが多いため、デジタルの利点を生かすには最適の部署だと思います。

「デジタルを活用して簡単・正確に」という考え方は国際的な潮流でもあります。例えば、経済協力開発機構(OECD)が2020年に公表した「税務行政3・0」(Tax Administration 3.0)というレポートがあります。その中では、デジタル・トランスフォーメーションが進んだ社会の姿として、税に関する手続が、日常の生活や取引の中に溶け込んでいくというような構想が示されています。

例えば通常、企業では、見積もりや受発注、納品、請求、決済、記帳などの作業が行われています。その上で、期末には決算があり、それを基にして税の申告や納付が行われます。それら一連の手続がデジタルで自動的に連携するような形となれば、税の申告や納付といった行政手続も、特段負担を感じることなく、日頃の業務の一環として行うことができるようになるといったイメージです。そこまで行くのはなかなか難しいかもしれませんが、諸外国でもデジタルを活用した先進的な取り組みが進められている中、日本も後れを取るわけにはいきません。

インボイスは消費税の適正課税のため

インボイスは消費税の適正課税のため

経理のデジタル化に関連して、「電帳法」や「インボイス」といった言葉を耳にすることがあると思います。まずはインボイスの方から説明しましょう。インボイスを英和辞書で引くと「請求書」や「送り状」といった訳が出てきますが、税務の世界では消費税法に基づく適格請求書等のことを指します。適格請求書等とは何かと言うと、一定の事項が書かれた請求書や納品書、領収書などの書類もしくはデータのことです。これまでも例えば軽減税率が適用されている旨などを記した、いわゆる区分記載請求書を交付したり保存したりしていただいたわけですが、インボイスには新たに①登録番号や②適用税率、③適用税率ごとの消費税額を記載していただくことになります。登録番号というのは、インボイスを発行できる事業者(適格請求書発行事業者)として、国税庁から登録を受けた番号のことです。登録を受けるためには申請が必要となりますので、まだお済みでない事業者の方はお早めの手続をお願いできればと思います。

元々消費税は、売り上げの際に受け取った税額から仕入れの際に支払った税額を差し引いて納める仕組みです。例えばA社が仕入先のB社から5500円(うち、500円が消費税)で仕入れた商品を8800円(うち、800円が消費税)で売った場合、この取引に関しA社が納める消費税は300円(800円–500円)となります。このように仕入れの際に支払った税額を差し引くことを仕入税額控除と呼びます。この仕入税額控除を適用するためには、売り手(この例ではB社)から交付されたインボイスの保存が必要になるというのが、いわゆるインボイス制度で、令和5年10月に始まります。売手(B社)が適格請求書発行事業者の場合、買手(A社)から求められればインボイスを発行しないといけないという義務も生じます。

事業者の方々にお願いしたいことをまとめますと、令和5年10月以降、①適格請求書発行事業者となった方については、モノを売った、ないし、サービスを提供したという場合には、取引の相手方に対して、所定の事項を記載したインボイスを交付していただくということ、②モノを買った、ないし、サービスを受けたという場合には、消費税の仕入税額控除を適用するために、相手方から交付されたインボイスを保存していただくということになります。そのための準備として③適格請求書発行事業者としての登録を受けていただくことも必要です(令和5年10月からインボイスを発行する場合、原則として同年3月までに申請を行っていただく必要があります)。また、④例えば請求書に登録番号を記載する欄を設けるなど、関連する業務プロセスやシステムの見直しについても、必要に応じてご検討いただければと思います。

ところで、消費税の計算で仕入税額分を控除できるのは、その分の消費税を仕入先が納税するからです。先の例で言えば、A社が消費税の計算上差し引いた500円は、B社から見れば売り上げの際に受け取った税額ということになり、B社が納めることになります。ただし、消費税を納める必要があるのは、原則として2期前の年間売り上げが1000万円を超える事業者です。仮にB社の年間売り上げが1000万円以下で消費税を納める義務がなかったとしたら、A社への売り上げに含まれる500円も消費税として納められることはありません。それにもかかわらず、A社が消費税を計算する際、この500円を差し引いたら、「納税なき仕入税額控除」が生じてしまいます。

また、現在、消費税は10%と8%(食料品等)という複数の税率が適用されていますので、売手が買手に対して何%の消費税を適用しているのか、また、税率ごとにいくらの消費税額が含まれているのかということを伝えることが重要です。例えばC社がD社から1万1880円の商品を仕入れたとします。D社は8%の消費税を適用して、うち880円(11,880×0.08÷1.08)を納める一方、C社は10%の消費税を支払ったものと認識して1080円(11,880×0.1÷1.1)分の仕入税額控除を適用した場合、差額の200円が「納税なき仕入税額控除」となってしまいます。

私たちが買い物をするとき、消費税としてその分のお金を払っているわけですから、その分はしっかりと納めていただく必要があります。そのための制度がインボイス制度ですので、制度を正しく理解した上で、検討・準備を進めていただければと思います。

インボイス制度を見据え、バックオフィスのデジタル化を

インボイス制度を見据え、バックオフィスのデジタル化を

ここまでインボイス制度の説明をしてきましたが、「デジタルの話はどこに行ったの?」と思われた方もいるかもしれません。インボイス制度はあくまで「消費税の計算に必要となる書類(データ)を保存しておいてください」という制度であって、デジタルによる業務処理を義務付けるものではありません。他方、一つ一つの取引について、請求書や納品書に書かれている消費税額をチェックした上、会計ソフトなどに都度入力するというのはいかにも大変です。ある意味現行の制度でも似たようなことが行われているわけですが、新しくインボイス制度が始まることを契機として、企業のバックオフィスのデジタル化を推進していこうというのが政府の方針です。

例えば、令和4年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」には、「請求については、(国際的な標準仕様に対応し)標準化された電子インボイス(デジタルインボイス)の普及・定着によりバックオフィス業務の効率化を実現するとともに、請求も含めた取引全体のデジタル化による新たな価値の創造や更なる成長につなげていけるよう、関係する事業者団体とともに、引き続き、必要な対応を行う。また、令和5年(2023年)10月の消費税のインボイス制度への移行を見据え、対応するソフトウェアや新たなサービス・商品等の開発を促し、関係省庁と連携の上、中小企業のデジタル化支援の一環として、その普及支援策を講じる。」という記述があります。ここではいくつかのキーワードが出てきていますが、個人的に重要だと感じるのは「標準化」と「取引全体のデジタル化」、あるいはそれによる「新たな価値の創造や更なる成長」といった言葉です。

一口にデジタル化と言ってもいろいろなレベルがあります。例えば、これまで紙で送っていた請求書をメールで送るということもデジタル化の一つの形です。これにより印刷や封入といった作業が省略できますので、業務の効率化もある程度図ることができると言えます。請求書を受け取った側でも、開封や回付といった作業が不要となります。一方で、受け取ったデータを見ながら別のシステムに相手方や金額などの情報を入力する、ないしはコピーアンドペーストで転記をするといった作業が残っていれば、デジタルの利点を十分に生かしているとは言えません。

これに対し、例えば専用のシステム(ソフトウェア)を利用して、機械で読み取れる形の請求データの授受が行われれば、見積データ等とのマッチングによる内容の自動チェックや、帳簿や決済データとの連携による自動消込といったことも可能となるかもしれません。そうすると、業務プロセスは一変し、生産性の大幅な向上も期待できます。このような姿が、「請求も含めた取引全体のデジタル化による新たな価値の創造や更なる成長」ということだろうと考えています。

そして、そのために欠かせないのが「標準化」です。と言いますのも、世の中にはいろいろなソフトウェアが出回っています。例えば受発注をデジタルで行うためのソフトウェアはX社製、請求はY社製、会計はZ社製といったように、それぞれ別々のソフトウェアを利用しているということも間々あると思います。このような場合、画面の見た目もさることながら、データの持ち方(ファイル形式、データの並び順など)が異なるため、データ連携による業務の効率化が難しいという課題があります。逆に、データそのものやそのやりとりが一定のルール(標準仕様)に従って行われていれば、その連携により「取引全体のデジタル化」や「新たな価値の創造や更なる成長」を期待することができるというわけです。日頃経理に携わる皆様も是非、デジタル化を含む業務フローの見直しなどをご検討いただければと存じます。

大幅に要件が緩和された電帳法

大幅に要件が緩和された電帳法

次に「電帳法」の話ですが、正式な名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。「電子帳簿保存法」と略されることもありますが、所得税法や法人税法など各税法で保存することが義務付けられている帳簿や書類(請求書など)をデータで保存する場合のルールが定められた法律のことです。

この電帳法、「令和3年度税制改正大綱」(令和2年12月12日自由民主党・公明党)において、「経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため」「抜本的に見直す」こととされました。
もともと電帳法では、①電子的に作成した帳簿や書類をデータのまま保存したい場合(電子帳簿等保存)、②紙で受領又は作成した書類について、紙の代わりにスキャンした画像データを保存したい場合(スキャナ保存)、③電子的に授受した取引の情報をデータで保存しなければならない場合(電子取引データ保存)の3つの類型に分けて、それぞれ保存方法等に関するルールを定めています。

このうち、電子帳簿保存(①)とスキャナ保存(②)については、そのような方法で帳簿や書類の保存を行う場合、事前に税務署長の承認が必要とされていたのですが、令和3年度改正で事前承認は不要となりました。また、スキャナ保存(②)を行う場合に求められていた相互けん制や定期的な検査といった要件(適正事務処理要件)も廃止され、すぐに紙を捨てることができるようになりました。このほか、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じることができるようにしていれば、検索できるようにしておかなければならないという要件が不要になる等の改正も行われています。

データで受け取ったものはデータで保存

「電帳法改正で帳簿や書類を全てデータで保存しなければならなくなったのですか」という質問を頂くことがありますが、答えはノーです。先ほど説明したように、令和3年度の電帳法の改正は、要件の大幅な緩和がその主な内容です。特に電子帳簿保存(①)やスキャナ保存(②)については、「そのような方法で保存を行いたい場合は法定のルールを守ってください」というものです。紙で受け取った書類はそのまま紙で保存していても問題ありません。

一方、電子取引(③)については一定の注意が必要です。この点は重要なのであえて法律の文言を引用しますが、電帳法2条五号では、「電子取引」の定義として、「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう」と定められています。簡単に言えば、注文書や契約書などの書類のやりとりを電子的に行っている場合のことを指します。そして、この電子取引について、改正前は「印刷した紙を保存する方法でもよい」というルールが明示的に書いてあったのですが、令和3年度の改正でこれがなくなりました。つまり、「データで受け取った注文書や契約書などは、法定のルールに従い、データのまま保存してください」というルールになったということです。法律上の原則としては、令和4年1月からこのルールが適用されていますが、システムの整備など一定の準備期間が必要であることが考慮され、令和5年12月まではこれまでと同様、印刷した紙を保存しておくことでもよいということになっています。

この電子的に授受を行った注文書や契約書などのデータの保存に関するルールですが、データの改ざんを防止するための要件と、データを後から確認できるようにするための要件があります。
改ざん防止については、(a)タイムスタンプ(一定の時点からデータが変更されていないことを認証する仕組み)の付与や(b)履歴が残るシステムを利用してデータのやりとりと保存を行う方法の他、(c)改ざん防止のための事務処理規程を作るという方法があります。もちろん規程は作るだけではなく守っていただく必要がありますが、必ずしも新しいシステムが必要というわけではありません。規程のサンプルは国税庁ホームページで公表していますので、それをテンプレートとしてご利用いただけば大丈夫です。

データを後から確認できるようにするためには、まず、ディスプレイやプリンタ等を備え付けていただく必要があります。「備え付け」といっても、もちろんノートパソコンのように持ち運べるもので構いません。このほか、日付・金額・取引先で検索できるようにすることも法定のルールです。例えばエクセルで索引を作ったり、規則的なファイル名を付けるなどの対応をお願いできればと思います。その他細かい点は国税庁ホームページに掲載しているパンフレット等をご確認ください。

デジタルで新しい働き方を

繰り返しになりますが、インボイス制度も電帳法も経理のデジタル化を無理やり推し進めようとするものではありません。ただこうした制度改正は、経理をはじめとする各種業務のデジタル化を検討する良いきっかけになると思っています。もちろん、業務のやり方を変えたり、新しいソフトウェアの使い方を覚えるといったことは大変だと思います。でも慣れてしまえば、今よりも楽になるはずです。

新型コロナウイルス感染症の影響で、私たちの働き方も大きく変わりました。一番の変化がリモートワークではないかと思います。これまで対面・書面が当たり前だった世界が、メールやWeb会議を利用することで場所を選ばず働くことができるようになりました。私も週の半分ぐらいは在宅で仕事をしていますが、通勤がいらないって実はすごいことですよね。

デジタルはいろいろな可能性を秘めていると思います。官民問わず、一人一人が創意と工夫をもってデジタルを活用した業務改善に取り組めば、より働きやすく、より生産性の高い社会の実現につながると信じています。