下請法改正の落とし⽳とは? Sansanが取適法施⾏後の実態に関するメディア向け勉強会を開催
2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法)。企業の取引適正化が求められるなか、現場では対応に苦慮する声も多い。Sansan株式会社は3月30日、メディア向けに「取適法施行後3カ月の実態」をテーマとした勉強会を開催した。弁護士による解説と、取引現場の実態を独自調査した結果から、実務上の課題が浮き彫りとなった。
取適法とは下請法の大幅改正により誕生した新制度
取適法は、2026年1月1日に施行された下請法の改正により成立した法律だ。発注者である委託事業者の優越的な立場を利用した不公正な取引を規制する「下請法」が改正され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称:中小受託取引適正化法、略称:取適法)として施行された。
改正により、適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大され、中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護が強化された。つまり、中小企業が不利な取引条件を押しつけられないように、よりいっそう制度が見直された形である。
取適法の適用対象取引における3つの義務
まずは、下請法改正審議に有識者委員として関与した、弁護⼠の松⽥世理奈氏が登壇。「施⾏後のいま確認すべき、実務対応のポイント」に焦点を当てた要注意点の解説を行った。
取適法の適用対象取引については、以下の3つの義務が課される。
①取引条件の明示と取引記録の作成・保存
取引の価格、納期、ボリュームなど基本的な条件の明示は、委託の際に直ちに行う必要がある。なお、個別の取引終了後、取引に関する記録(7条記録)を2年間保存する義務がある。
②報酬の適正な支払期日の設定
発注者は納品から60日以内に支払いを完了しなければならない。支払いが遅延した場合、遅延利息(年率14.6%)の支払義務がある。
③濫用行為の禁止
発注者である委託事業者の優越的な立場を利用し、不当な行為を行ってはならない。
取引先とのさらなるコミュニケーションが重要
松田弁護士は、続けて実務対応のポイントを解説した。掲げられた要点のなかでも注目すべき事項として、以下の2つを紹介したい。
①適用対象かどうかの把握方法
取適法では、従来の資本金基準に加えて従業員数基準が導入されたため、適用対象となる事業者の判定プロセスが複雑化した。この点が実務上もっとも大きな反響を呼んでいる。まず、企業は従来通り資本金基準で対象か否かを判定する。資本金で対象外となった場合は、自社と相手企業それぞれの従業員数を確認し、対象かどうかを再判定する。
しかし、この従業員数確認をどのように運用するかについて、明確な正解は存在しないと松田弁護士は指摘した。企業ごとに工夫が分かれており、たとえば従業員数にバッファを設け、年1回など定期的に確認する企業も見られるという。いずれにせよ、法令の要求を踏まえつつ、企業ごとに社内ルールを定めて運用する必要がある点が強調された。
②価格協議の方法
取適法では、原材料費や人件費などの価格変動要因があった場合に、中小受託事業者が求める価格協議に応じず、必要な説明や情報も出さずに発注者が一方的に代金を決めることが禁止されている。
今後は、中小企業同士の取引における価格転嫁についても、行政がより厳しく監視していく見通しだ。そのため、企業としては引き続き価格転嫁への意識を持ち、適切に対応していく必要がある。
松田弁護士は、発注者は協議の場に応じて価格決定プロセスの妥当性を確保しなければならないとし、交渉内容は後から確認できるよう記録を残すことが重要であると指摘した。
取引条件の可視化と情報収集の負担軽減が重要なポイント
勉強会では、次にSansan株式会社の大泊杏奈氏(Contract One Unit プロダクトグループ プロダクトマネジャー)が登壇し、取適法施行後の実態調査結果を報告した。本調査は、2026年1月に施行された取適法の施行後3カ月における企業の対応状況を把握するため、受注者743名と発注者143名の計886名を対象に実施したものだ。
受注者に対し、取適法施行後に価格協議が増加したかを尋ねたところ、「増加した」と回答した割合は43.2%。大泊氏は「法改正を価格転嫁のきっかけにつなげられている企業とそうでない企業とで、対応に差が出ている現状がわかります」と指摘した。
なお、受注者の72.1%が「契約書が手元になく交渉をためらった」と回答している。契約管理の不備が、価格転嫁を阻害していることを示唆する内容となった。
一方、発注者側に対して、受託事業者の特定に対応できているかを尋ねたところ、「課題がある」と答えた層が6割程度となった。さらに、課題を感じている層に理由を尋ねたところ、最も多かったのは企業情報の確認収集であり、手作業での情報収集が現場の負担になっていることが明らかになった。
調査結果をふまえ、大泊氏は「価格協議を増やせている層に着目すると、取引条件をすぐに確認できる環境が、価格協議の促進だけでなく適切な履行にも必要であることが明らかになりました」とまとめた。一方で、発注側では対象事業者の特定に課題が残り、特に情報収集の負担が大きいと指摘する。
また「法改正による業務負担を最小限にしつつ取引慣行をアップデートしていくためには、取引条件の可視化と情報収集の負担軽減が重要なポイントになると考えています」と述べた。
契約情報の一元管理が取引適正化のカギに
大泊氏は最後に、すべての契約書をデータ化して全社活用の契約データベースを構築するプロダクト「Contract One」を紹介した。取適法においては、取引の変遷を把握することも重要だ。Contract Oneは契約状況を、変遷も含めて把握し、業務に活用できるようにしている。さらに、AIを活用した機能によって、複雑な契約内容も容易に把握できるという。
またContract Oneでは契約書の内容から製造委託や修理委託といった取引区分を自動で抽出でき、企業単位で集計することも可能であると説明した。さらに、従業員数や資本金といった企業情報もContract One上で確認できる。同社が提供するビジネスデータベースの情報を活用し、企業情報を照合できる仕組みを備えている。
取引内容の洗い出しと企業情報を組み合わせることで、取適法の対象となる企業を絞り込み、該当する委託取引の有無を効率的に確認することが可能になるという。
取適法への対応は、単なる法令順守にとどまらず、取引の透明性を高める契機でもある。制度の趣旨を踏まえつつ、現場の負担を軽減する仕組みづくりが、これからの企業に求められているといえるだろう。









