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「介護休暇」「介護休業」取得者に、介護をするな!と伝えるのが人事部の役目、復職に向けた体制の整えかた

2020.11.11

前回は「望まない介護離職を防ぐために人事部・管理職が知っておくべき新常識」と題して、家族の介護を理由に離職する人が年間10万人にものぼる現状と、それを防ぐために人事部や管理職が注意すべき心構えについて解説しました。

今回のテーマは「介護休業中に介護はするな!?復職に向けた介護体制の整えかた」です。先に結論から申しますと、介護休暇・介護休業を取得した際にするべきことは介護ではなく各種手続きです。親の介護に直面した従業員が行う一連の手続きや流れを、人事部や管理職が知ることで、従業員の復職に向けてより良いサポートをしていただきたいと思います。

介護保険サービス利用に向けた各種手続き

まずは介護休暇・介護休業取得中に行うべきことの全体像を見ていきましょう。実際に介護サービスを使い始めるには以下のようなプロセスを踏む必要があります。

初めて耳にするような手続きばかりではないでしょうか。従業員が復職するには、公的介護保険サービス(以下、介護サービス)を利用できるように、親の介護体制を整える必要があります。その具体的な手順について解説します。

介護休暇・介護休業を取得する目的

介護休暇・介護休業を取得する目的

前回のコラムでお伝えしたように、従業員は要件を満たすことで「介護休暇は年間で5日間」、「介護休業は通算93日間」取得することができます。そして、ここで重要なのは介護休業中に親の看病や介護そのものに専念してはいけないということです。

家族がどれだけ頑張って介護をしたところで、要介護状態はそう簡単に回復しません。高齢期の身体機能の衰えは自然の摂理。介護の長期化で負担が増すことの方が普通なのです。そのため、休業中にすべきは復職できるように介護体制を整えること。その第一歩が行政手続きとなります。

行政手続きは休業中にまとめて済ませる

行政手続きには「要介護認定の申請」や「認定調査の立ち合い」、「介護サービス事業者との契約」などがあります。親が入院するといった場合は、病院の付き添いや入退院の準備も必要です。さらに、介護について家族のだれが意思決定をするのか、家族内での連絡や相談ごとも並行しなければなりません。

行政手続きのため役所へ行きたいのに、土日は時短営業や休業ということが一般的です。職場の近隣ならば仕事を早退して向かうことができるかもしれません。しかし、親が遠距離に住む場合には帰省するだけで丸一日潰れる方もいるでしょう。

そのため、こうした手続きは介護休暇や介護休業を取得して行います。新幹線や飛行機で帰省する方は交通費の負担も大きいので、必要な手続きはまとめて済ませるように準備しておくとよいでしょう。

企業は介護休業を拒否できない!しかし対象外のケースも

 介護休業は法令で定められた制度であり、従業員から申し出があった場合、企業はこれを拒否することはできません。企業に介護休業という制度がなくても、要件を満たした従業員は介護休業を取得することができます。これは人事部や管理職が知っておくべき常識といえるでしょう。
また、雇用条件等で対象外となる場合もあるので、その主な要件を記しておきます。

 

介護保険証だけでは介護サービスを利用できない

介護保険は医療保険の仕組みをもとにつくられており、利用した介護サービス金額の原則1割負担で済む制度です。(一定所得以上の人は2、3割負担)

65歳の誕生日の一ヶ月前に「介護保険被保険者証(以下、介護保険証)」が交付され郵送で自宅に届きます。しかし、病院で提示すればその場で保険適用となる医療保険と異なり、介護は介護保険証だけでは保険適用となりません。

保険適用とするには、その高齢者にどの程度の介護が必要かを判定した「要介護認定」を取得する必要があります。
※40歳~64歳までの方で国が指定する「特定疾病」に該当する場合は、介護保険の「第2号保険者」として要介護認定を受け、介護サービスを利用することができます。

申請から介護認定取得まで約一ヶ月

要介護認定を取得するには、まず役所の窓口で申請書を提出します。「介護保険課」「高齢福祉課」などが担当窓口となりますが、役所によって名称が異なるので各役所の公式サイトで確認しておくとよいでしょう。

この申請をすると、行政から委託された「介護認定調査員」が派遣され、対象の高齢者のいる自宅や病院を訪問して対面調査が行われます。調査では現在の住環境や、身体機能・認知機能、直近で受けた治療などについて確認。その内容と、後日取得する主治医意見書を添えて審査を経て「要介護認定」が決まります。この申請から認定結果が出るまではおよそ一ヶ月程度かかります。

ケアプラン作成と介護サービスの利用

要介護区分(要介護1~5)の判定が出たら、どういった介護サービスが必要かケアプラン(介護サービス計画)を立てるケアマネジャーと契約します。ケアマネジャーは実務経験5年以上の介護のプロフェッショナルで、居宅介護支援事業所(通称:居宅)に在籍しています。役所や地域包括支援センターに連絡すれば、最寄りの居宅情報を教えてもらうことができます。

ケアマネジャーはケアプランをつくるだけでなく、月に一度親のもとを訪問したり、介護を進めるなかで相談に乗ってくれたりする心強いパートナー。そのため、複数の居宅のケアマネジャーと会い、親の介護に対して的確な提案をしてくれるか。「できるだけ早く復職したい」といった要望にも理解を示してくれるかなど、相性の良い人を選ぶこと。居宅との契約も含めて対面でおこなう必要があるので、この手続きもやはり介護休業中におこないます。

ケアマネジャー、そして介護サービス事業所と契約をし開始日が確定したら、いよいよ介護サービスの利用がスタートします。親も家族も最初は不安だと思いますので、休業期間中に実際の介護の様子を確認しておくとよいでしょう。

「リモートワークなら介護休暇は不要」という考えが離職者を増やす

いかがでしたでしょうか。介護サービスを利用して復職するまでに従業員がおこなう手続きは多岐に渡り、それぞれ時間を要するものばかりです。仕事と並行してできないことも多いため、介護休暇・介護休業を上手く活用し介護体制を整える必要があります。

コロナ禍でリモートワークを導入する企業が増えました。「リモートワークなら休暇を取らなくても親の介護と仕事を両立できるのでは?」といった安易な意見も散見されますが、現実はそううまくいきません。その状況を続けることで、介護にも仕事にも集中できず、思うように成果を上げられない従業員は次第に疲弊し、介護離職のきっかけとなる可能性が高いのです。人事部や管理職の方は「介護は介護のプロに」という鉄則を忘れずに、従業員と接していただきたいと思います。

次回は、「在宅介護か施設入居か。知っておくべき介護サービスの基礎」について解説します。