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労災保険とは 加入手続き・給付手続きの流れを紹介

2021.03.08

 業務中や通勤中の怪我や病気を指す「労働災害(労災)」。どのようなケースが労災に該当するのかや、被災した従業員が受けられる労災保険の給付内容について知りたいと考える担当者もいるのではないだろうか。

 今回は、労災保険の概要や給付内容、対象となる事象や加入・給付の手続きを紹介する。基本的な知識を身につけ、万が一労災が起きた場合にスムーズに対応できるようにしよう。

目次

●労災保険とは
●労災保険の対象となる事象
●労働保険の成立(加入)手続き
●労働保険の給付手続き
●まとめ

労災保険とは

 労災保険は、正式名称を「労働者災害補償保険」といい、従業員が業務上の事由や通勤によって負傷・入院・死亡等した場合に、本人や遺族に必要な保険給付を行うものだ。まずは、労災保険の概要や適用対象を見ていこう。

労災保険の概要
 労災保険は「労働保険」の一つで、労働保険には他に「雇用保険」がある。保険給付は労災保険・雇用保険それぞれで行われるが、保険料の納付等は労働保険一体のものとして取り扱われる。健康保険や厚生年金等とは異なり、保険料の全額を事業主が負担することが特徴だ。

 怪我や病気を対象とした「健康保険」との違いは、労災保険の対象は業務上または通勤途上に起因したもののみが対象となる点だ。労災保険の補償対象となると被災従業員の自己負担がないこと、休業時の手当額が大きいことから、健康保険の傷病手当金よりも手厚い補償であると言えるだろう。

 なお、労災保険では、従業員の社会復帰等を図るための事業も行っている。

参考:厚生労働省「労災保険・雇用保険の特徴」

ほぼ全ての企業が労働保険の適用対象
 企業は、パートタイマーやアルバイトを含め従業員を1人でも雇用していれば、業種・企業規模を問わず労働保険に加入しなければならない(農林水産業の一部の事業を除く)。

 一方で、適用事業の対象でありながら相当数の未手続事業が存在していることが課題となっており、厚生労働省は2005年度から各種企業・個別事業主への訪問指導の強化、保険関係の加入手続を取らない企業に対する積極的な成立手続の実施等を行っている。指導を受けたにも関わらず未加入を続け、その期間中に労災事故が発生した場合は、労災保険給付に要した費用の全額または一部が徴収されることに注意しよう。

参考:厚生労働省「労働保険とはこのような制度です」
参考:厚生労働省「労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度の強化について」

受けられる給付の内容
 労災保険によって被災従業員またはその家族が受けられる給付は、以下の通りだ。詳しくは厚生労働省のホームページや資料を確認しよう。

・療養(補償)給付
・休業(補償)給付
・休業補償特別援護金
・遺族(補償)給付
・葬祭料(葬祭給付)
・長期家族介護者援護金
・未支給の保険給付
・労災就学援護金
・労災就労保育援護金
・傷病(補償)年金
・障害(補償)給付
・アフターケア
・介護(補償)給付
・義肢等補装具の費用支給
・外科後処置
・二次健康診断等給付

参考:厚生労働省「請求(申請)のできる保険給付等 ~全ての被災労働者・ご遺族が必要な保険給付等を確実に受けられるために~」

労災保険の対象となる事象

 労災保険の対象には、業務上の事由による「業務災害」と、通勤途上の事由による「通勤災害」が該当し、その他に従業員の社会復帰等を図るための「社会復帰促進等事業」を行っている。ここでは、それぞれの対象となるケースを紹介する。

業務災害の対象
 「業務災害」とは業務が原因となった災害を指し、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることをいう。業務災害の対象となるか否かを、ケース別見ていこう。

<企業の支配・管理下で業務に従事している場合>
 所定労働時間内や残業時間内の災害は事業場の施設や設備の管理状況等が原因となって発生するものと考えられ、特別な事情がない限り、業務災害と認められる。ただし、以下の場合は業務災害の対象となならない。

・従業員が就業中に私的行為または業務を逸脱する恣意的行為をし、それが原因となって被害を受けた場合
・従業員が故意に災害を発生させた場合
・従業員が個人的な恨み等により、第三者から暴行を受けた場合
・地震や台風等、天災地変によって被災した場合(例外あり)

<企業の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合>
 昼休みや就業時間前後に施設内に滞在しているときの行為は私的行為として扱われるため、私的行為によって被災した場合は、基本的に業務災害の対象にならない。ただし、事業場の施設・設備や管理状況などがもとで発生した災害は、業務災害に該当する。

 なお、排泄等の生理的行為等については企業の支配下にある行為に付随するものとされるため、この場合の被災は業務災害として認定される。

<企業の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合>
 このケースには出張や社用によりオフィス外で業務に従事している場合が該当する。この場合は就業場所を問わず企業の支配下で業務にあたっていると考えられるため、私的行為などの理由によって被災するなどの特別な場合を除いて労働災害と認められる。

参考:厚生労働省 東京労働局「業務災害について」

通勤災害の対象
 「通勤災害」とは、従業員が「住居と就業場所との間の往復」や「就業場所から他の就業場所への移動」により被った負傷、疾病、障害又は死亡だ。

 なお、通勤の際、移動の経路を逸脱したり移動を中断したりした場合は、逸脱・中断中・中断後の移動は「通勤」として扱われない。ただし、日常生活上必要な行為や厚生労働省で定める以下の行為については例外となる。

・通勤経路近くの公衆便所を使用する場合
・経路上の店でタバコやジュースを購入するなどの些細な行為
・日用品の購入やこれに準ずる行為
・職業訓練等、職業能力の開発向上に役立てる教育を受ける行為
・選挙権の行使やそれに準ずる行為
・病院等で診察や治療を受ける行為

参考:厚生労働省 東京労働局「通勤災害について」

社会復帰促進等事業の対象
 「社会復帰促進等事業」は、保険給付の他に、被災従業員の社会復帰促進やその遺族の援護を図ることを目的とした事業のことだ。例として、本来傷病治癒後は療養費の支給対象とならないが、「義肢を装着するための断端部の再手術」「顔面などの醜状を軽減するための再手術」が必要な場合は、外科後処置を受けることができる。

 また、四肢の亡失など身体に障害が残った場合、労働能力回復と社会復帰促進のために必要に応じて補装具の費用支給や修理をする場合も事業対象となる。

 その他、被災従業員の遺族や重度障害者の子弟等に対する労災就学援護費・労災就労保育援護費の支給や、せき髄損傷者・一酸化炭素中毒者・頭部外傷者等で障害(補償)給付を受けている人のアフターケアもこれに該当する。

参考:厚生労働省 東京労働局「社会復帰促進等事業のあらまし」

労働保険の成立(加入)手続き

 労働保険の適用事業になった際は、「保険関係成立届」の届け出と「概算保険料申告書」(その年度分の労働保険料の概算)の申告・納付が必要だ。「一元適用事業」と「二元適用事業」のどちらに該当するかによって手続きが異なるため、それぞれのケースの手続き方法を見ていこう。

一元適用事業の場合
 「一元適用事業」とは労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等を一元化して行う事業を指し、一般的に農林漁業や建設業等の「二元適用事業」に該当しない事業が対象だ。一元適用事業の手続きの流れは以下の通り。

※※一元適用事業の手続き 図版
(2)の手続きは(1)の手続き後または同時に行うことが可能だが、(3)(4)は(1)の後に行うことに注意しよう。

二元適用事業の場合
 「二元適用事業」とは、農林漁業や建設業等、事業の実態から労災保険と雇用保険の適用を区別する必要がある事業のことで、保険料の申告・納付はそれぞれで行う。以下の手続きの他に、雇用保険の手続きを行わなければならないことに注意が必要だ。

※※二元適用事業の手続き 図版
一元適用事業と同様に、(1)の手続き後または同時に(2)の手続きを行う。

参考:厚生労働省「労働保険の成立手続き」

労災保険の給付手続き

 労災保険の給付を受けるためには、被災者本人又はその遺族が、所定の「保険給付請求書」に必要事項を記入し、企業の証明を受けた上で、所属事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならない。それぞれの給付には時効があるため、従業員がスムーズに手続きを行えるようにしよう。

※※ 給付の図版
参考:厚生労働省 東京労働局「保険給付の手続き」

まとめ

 従業員を1人でも雇っている企業には労災保険(労働保険)の加入が義務付けられている。労災保険の給付は従業員が受けられる正当な権利であるため、万が一労災が起こってしまった場合にきちんと給付を受けられるような体制を整えておくことが重要だ。今回紹介した基本的な知識を身につけ、従業員が安心して業務に従事できるよう心がけよう。

関連記事:「労働災害(労災)の定義と知っておくべき保険申請とは」

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