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雇用保険法とは?制度の基本と2022年1月の改正点、企業で必要な対応を解説

2022.12.26
オフィスのミカタ編集部

雇用保険法とは、労働者がいる事業所について、加入対象の労働者を雇用保険に加入させることを定めた法律だ。会社の事業規模や業種を問わず、事業主は雇用保険の適用事業所として管轄のハローワークに届出をして、雇用保険料の納付と各種の届出をする必要がある。

雇用保険法が最初に制定されたのは1974年(昭和49年)12月のこと。その後、何度も改正され、2022年1月には雇用保険の加入条件に関わる大きな改正があった。そこで今回は、雇用保険法の基本や制度の適用範囲、企業向けの助成金や奨励金、改正雇用保険法で必要な対応を解説する。

目次

●雇用保険法とは
●雇用保険の適用範囲について
●雇用保険の給付金・助成金
●改正雇用保険法で必要な対応
●まとめ

雇用保険法とは

雇用保険法とは、雇用保険制度について定めた法律のこと。雇用保険法は、「労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進」と、「失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進等をはかる」ことを目的としている。はじめに、雇用保険法に定められた雇用保険制度の基本について説明する。

雇用保険制度の概要
雇用保険は政府管掌の保険制度で、原則として労働者が1人でもいる事業所は、事業所を管轄するハローワークに「事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」を提出することになっている。(※原則として強制的に適用となる)適用事業所は、雇用保険料の納付と、雇用保険法の規定による各種届出の義務が発生する。雇用保険料は、賃金の総額と保険料率で決まり、労働者と事業主の両方がこれを負担する。

参考:厚生労働省『雇用保険制度』

雇用保険の適用範囲について

雇用保険の適用範囲は、労働者がいる事業所は一部の農林水産を除き適用範囲となる。業種や規模を問わず、すべての事業所が対象だ。被保険者となる加入条件は以下のとおり。

雇用保険の被保険者とは
雇用保険は、企業の労働者を対象としている制度で、加入条件を満たした労働者は本人の希望にかかわらず被保険者となる。企業の代表や役員、個人事業主などは労働者性がないとして、雇用保険の被保険者とならない。ただし“会社の役員と同時に部長、支店長、工場長等の従業員としての身分を有する者は、服務態様、賃金、報酬等からみて、労働者的性格の強いものであって、雇用関係があると認められる場合に限り”、雇用保険に加入できるとされている。

雇用保険の加入条件
雇用保険は、労働者の雇用形態が正規・非正規のいずれかを問わず、条件を満たしていれば雇用保険への加入対象となる。被保険者となるにはどのような条件があるのか、確認しておこう。

・1週間の所定労働時間が20時間以上
・同一の事業主に継続して31日以上雇用されることが見込まれる

以上2つの条件を満たす労働者は、原則的に雇用保険に加入することが必要だ。ただし例外として、季節的に雇用される労働者や昼間学生など、被保険者とならない場合もある。

参考:厚生労働省『雇用保険制度 Q&A~事業主の皆様へ~』

雇用保険の給付金・助成金

雇用保険による主な給付は、下記の4つだ。ただし給付にはいくつか条件があるので、注意してほしい。

労働者が受け取れる給付金
雇用保険というと、「失業した労働者にハローワークで支払われる保険」というイメージが強いが、給付は基本手当(いわゆる失業給付)だけではない。ここでは、労働者が受け取ることができる給付金の種類について解説する。

●求職者給付
求職者給付は、就職の意思と能力がある労働者が失業した際に、失業期間中の生活を支えて再就職活動を支援するために支払われる給付金だ。一般的に「失業給付」あるいは「失業保険」と呼ばれるのは、この求職者給付の「基本手当」を指している。

なお、65歳以上で失業した場合は「高年齢求職者給付金」を受給することになる。また、求職の申込み後に病気や怪我などで15日以上働けない状態が続いた場合は、基本手当と同額の「傷病手当」が支給される。

●就職促進給付
就職促進給付は、再就職と再就職後の継続した勤務を支援するための給付だ。基本手当の給付期間を残して再就職した場合に支払われ、失業の認定を受けた後の基本手当の受給残日数によって給付額が異なる。支給の要件を満たしている失業者のみ申請が可能で、早く再就職するほど給付率が上がる仕組みになっている。

●教育訓練給付
教育訓練給付は、厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練を受講・修了した場合に、その費用の一部を支給する制度だ。失業者だけでなく在職者にも適用される点が他の給付と異なり、労働者の主体的な能力開発や中長期的なキャリア形成支援を目的としている。レベル等によって「一般教育訓練」「特定一般教育訓練」「専門実践教育訓練」がある。

参考:厚生労働省『教育訓練給付制度』

●雇用継続給付
雇用継続給付は、家族の介護などで就労できない場合や、定年後の再雇用や再就職で給与が減った高年齢の労働者を対象に支給される給付金だ。

雇用保険の被保険者期間が5年以上で年齢が60歳以上65歳未満の被保険者で、支給要件を満たしている場合は「高年齢雇用継続基本給付金」または「高年齢再就職給付金」を受給することができる。

家族の介護のために休業した被保険者で、要件を満たしている場合は「介護休業給付」が支給される。申請は介護休業期間の終了後で、被保険者本人ではなく事業主が行う。(事業所の「介護休暇」とは異なる)

参考:厚生労働省『雇用継続給付について』
参考:厚生労働省『雇用保険制度 Q&A~高年齢雇用継続給付~』

●育児休業給付
子どもを養育するために休業した労働者の、生活と雇用安定のために支給される。育児休業期間が終了した後に職場復帰することを前提にしており、通常、申請手続は本人ではなく事業主が行う。この給付は実子だけでなく、養子・特別養子縁組のために監護を受けている場合・養子縁組で養親となることを希望している場合も、給付の対象となる。男女は関係なく、要件を満たせば支給される。かつては失業等給付に含まれていたが、2020年4月1日施行の法改正により、育児休業給付は独立した。

参考:厚生労働省『雇用保険制度 Q&A~育児休業給付~』

企業向け助成金・奨励金
雇用保険適用の企業(事業主)が要件を満たした場合には、申請により各種の助成金・奨励金が支払われる。雇用の安定や職場環境の改善、労働者の能力開発などの目的で、厚生労働省より支払われる制度だ。助成金の種類は多岐にわたり、厚生労働省のWebサイトに検索ツールがあるため、該当するかどうか確認してみるとよいだろう。

参考:厚生労働省『事業主の方のための雇用関係助成金』

助成金を受給するには、事業主の要件を満たし、かつ各助成金の個別要件も満たしていることが必要だ。なお、雇用関係助成金を受給する企業は、労働生産性を向上させた等の要件を満たせば「労働関係助成金」が割増される。

改正雇用保険法で必要な対応

2022年の法改正により、保険料率が引き上げられたのは既知の方も多いだろう。ここでは保険料以外の、企業によっては新たな対応が必要なケースを見ていこう。

65歳以上の雇用保険加入
雇用保険の改正により、65歳以上の労働者も、以下の要件を満たせば雇用保険に加入できるようになった。

・週の所定労働時間が20時間以上
・31日以上の雇用が見込まれる

上記の要件を満たした場合は、事業主は入社の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出しなければならない。なお、事業所によっては、毎年6月に「高年齢者・障害者雇用状況等報告(通称:高年齢者雇用状況報告書)」を提出する義務がある。

多彩な働き方への対応と副業・兼業ルールの見直し
厚生労働省にて「マルチジョブホルダー制度」が新設され、65歳以上で兼業・副業を行う労働者も雇用保険に加入できるようになった。これにより、下記の要件を満たした労働者は保険適用となる。

・2つ以上の事業主に雇用される65歳以上の労働者
・それぞれの事業所における週の所定労働時間が20時間未満
・各事業所の週の所定労働時間を合算して20時間以上

65歳以上の副業・兼業者で一週間の労働時間の合計が20時間以上であれば、複数の事業所のうち、原則として「主たる賃金」を受け取っている企業で雇用保険に加入することとなる。ただし通常の保険加入と異なり、65歳以上の兼業・副業の労働者は本人の申し出が必要で、強制加入ではない。副業・兼業を希望する高年齢の労働者は増加傾向にあるため、業種や職種などにもよるが、副業・兼業を禁止している企業はルールを見直すとよいだろう。

参考:厚生労働省『雇用保険マルチジョブホルダー制度について』

労働時間の管理方法の見直し
企業が高年齢労働者の副業・兼業を許可する場合は、労働時間の合算が必要となる。したがって労働時間について、自社だけでなく副業・兼業先の労働時間も管理しなければならない。労働基準法により、一方の企業で法定労働時間に達していて、他方の企業で時間外労働がなくても、時間外労働として賃金の割り増しが必要となるケースがあるからだ。副業・兼業を開始する前に、あらかじめ他方の労働時間に上限を設定してその範囲内で副業・兼業を行ってもらうなど、労働時間の管理について策を講じておくことが必要となる。

参考:厚生労働省『副業・兼業』

まとめ

雇用保険法は、労働者の生活と雇用の安定をはかる法律である。同時に、適用事業所には、新たな労働者の雇い入れや職業能力の開発など、さまざまな取り組みに対して助成金を受けることができる。入社手続きはさまざまあるが、雇用保険は労働者が安心して働ける環境を整えると同時に法律で定められた期限があるので、担当者はスピード感をもって手続きを行ってほしい。

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