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【働き方改革関連法】2023年4月の「法定割増賃金引上げ」に注目

2022.12.26
オフィスのミカタ編集部

働き方改革関連法は、多様で柔軟な働き方の実現に向け措置を講じている労働関連法の総称だ。2023年以降も労働基準法や育児介護休業法といった関連法の改正が適用されていくが、具体的な内容を知りたい担当者も多いだろう。本記事では2023年の働き方改革関連法の動向や注目ポイントを紹介する。法改正や適用拡大に備え、本記事を参考に知識を深めてほしい。

目次

●2023年に注意すべき、働き方改革関連法の改正ポイント
●労働基準法「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率」が中小企業にも適用
●「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率」適用拡大で、企業に求められる対応
●育児休業取得状況の公表の義務化への対応
●まとめ

2023年に注意すべき、働き方改革関連法の改正ポイント

働き方改革関連法は、労働関係法律改正の総称だ。ここでは、働き方改革関連法の概要や、2023年に注意すべき法改正について解説する。

働き方改革関連法とは
働き方改革関連法の正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」という。これに基づき、「労働人口の減少」や「長時間労働」、「正規と非正規雇用労働者の格差」、「育児や介護との両立」などの課題を改善するべく、労働関係法などの関連法が改正されている。厚生労働省は、働き方改革関連法の整備目的を「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等」としている。
(参考:厚生労働省『働き方改革関連法等について』

2023年は労働基準法と育児介護休業法への対応がポイント
働き方関連法の2023年の注目ポイントとして、同年4月から労働基準法と育児介護休業法改正への対応が新たに必要となる点があげられる。具体的な改正のポイントは、次の2点だ。

●労働基準法:月60時間を超える時間外労働の割増率引き上げ(中小企業)
●育児介護休業法:育児休業取得状況の公表の義務化(大企業)

それぞれの詳細を見ていこう。

労働基準法「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率」が中小企業にも適用

ここからは、それぞれの改正内容などを解説する。

法改正の内容
2023年4月から、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金の引き上げが、中小企業にも適用される。これまで、1ヵ月に60時間を超える時間外労働には、50%の割増率の適用が義務化された。ただし、法改正により事業に与える影響を考慮し、50%の割増率は大企業にのみ適用され、中小企業は猶予措置として25%の割増率が維持されていた。しかし、2019年4月施行の働き方関連法により、中小企業の猶予措置が2023年3月末日で修了することが決定した。そのため、2023年4月からは、中小企業も月60時間を超える時間外労働をさせた従業員に対し、50%の割増賃金の支払いが義務となるため、注意が必要だ。
(参考:厚生労働省『月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます』

割増率引き上げ後の時間外労働の計算方法
具体的に、月60時間を超えた時間外労働の計算方法をみていこう。

<時間外労働の条件>
・1ヵ月の起算日は毎月1日
・時間外労働の割増賃金率は、60時間以下が25%、60時間超が50%とする
・深夜労働/休日労働はないものとする
・出勤日数は20日間で、70時間の時間外労働が発生しているものとする
・1時間あたりの賃金は1,500円とする

上記条件に基づき、下記の方法で時間外労働に対する割増賃金を計算すると下記の通りとなる。

1)60時間以内の時間外労働
60時間×1.25×1,500円=112,500円 

2)60時間を超える時間外労働
10時間×1.5×1,500円=22,500円

上記1)と2)を足し合わせた135,000円が時間外労働に対し支払うべき賃金となる。

深夜労働との関わり
月60時間を超える時間外労働を、深夜帯(22時~翌5時)に行わせる場合、深夜の割増賃金率は下記の通りとなる。

25%以上(深夜割増)+50%以上(時間外割増賃金率)=75%以上

例えば、時間外労働が既に月60時間を超えており、割増賃金率が50%、深夜割増賃金率が25%、1時間あたりの賃金が1,500円で、9:30~25:30まで勤務させた場合の割増賃金は以下のように求める。
※9:30~18:30までは法定労働時間内のため時間外手当の支払いはない

1)18:30~22:00までの時間外労働が3.5時間は割増率50%を適用

3.5時間×1,500円×1.5=7,875円

2)22:00~25:30までの3.5時間が深夜割増(25%)+割増賃金率(50%)を合算した割増率75%を適用

3.5×1,500円×1.75=9,187.5=9,188円
※1時間あたりの割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合は、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げることが労働基準法で認められている。

上記1)と2)で求めた割増賃金を足し合わせた額が、支払うべき割増賃金となる。

休日労働との関わり
休日には法律で定められた「法定休日」と、会社が定めた「所定休日」の2つがある。2つの休日でそれぞれ適用する割増率が異なることを覚えておきたい。そもそも、「法定休日」に勤務させた場合は「休日労働」であり、「時間外労働」に含まれない。そのため、月の時間外労働が60時間を超えた後、法定休日に勤務させた場合は、通常の法定休日割増率の35%が維持される。対して、会社が定める所定休日の場合は「時間外労働」扱いとなる。「所定休日」に勤務させ、かつ月60時間の時間外労働を超得ている場合は、50%の割増賃金率を適用し割増賃金を計算する必要があるため注意しよう。

「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率」適用拡大で、企業に求められる対応

ここでは、「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率」の適用拡大で、求められる対応を解説する。

代替休暇の付与
月60時間を超える法定時間外労働をさせた従業員には、引き上げ分の割増賃金の支払いに変えて、有給休暇(代替休暇)を付与することが可能だ。ただしこの場合は、以下4つの内容を定める労使協定の締結が必要となることを覚えておこう。

<労使協定で定める事項>
1.代替休暇の時間数の具体的な計算方法
2.代替休暇の単位
3.代替休暇を与えることのできる期間
4.代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

(参考:厚生労働省『月60時間を超える法定時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません』

就業規則の変更
割増賃金率の引き上げに伴い、就業規則の変更が必要となる場合がある。厚生労働省が示すモデル就業規則は下記の通りだ。就業規則の変更が必要な場合は、厚生労働省のHPを参考にするのがよいだろう。

(割増賃金)
第〇条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月1日を起算日とする。
① 時間外労働60時間以下・・・・25%
② 時間外労働60時間超・・・・・50%
(出典:厚生労働省『月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます』

育児休業取得状況の公表の義務化への対応

2023年4月から、常時雇用する労働者が1,000人を超える企業に対し、年1回、育児休業取得状況の公表が義務付けられる。ここでは改正育児介護休業法への対応ポイントなどをみていこう。

<公表の義務のあるもの>
2023年4月より、常時雇用する労働者が1,000人を超える企業は、以下のいずれかを公表しなければならない。

1.男性の育児休業等の取得状況
2.育児休業等と育児目的休暇の取得割合

上記いずれかの場合でも、集計する育児休業は、「産後パパ育休やそれ以外の育休を分ける必要はないとされている。また、公表は自社の公式HPや厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」で行うことが推奨されている。詳しくは、詳細は厚生労働省のHPで確認可能だ。
(参考:厚生労働省『育児・介護休業法の改正について』
(参考:厚生労働省『両立支援のひろば』

関連記事:『【2022年10月施行】産後パパ育休(出生時育児休業)とは?制度の特徴や育休取得のポイントを解説!』

まとめ

2023年の働き方改革関連法は、労働基準法と育児介護休業法の改正への対応がポイントだ。中小企業にとっては、4月から60時間を超える時間外労働に対する割増賃金の計算方法が変更となることで大きな影響があるだろう。自社の就業規則を変更する必要があるかどうかなどの確認を、事前に済ませておこう。また、大企業では育休取得状況の公表が義務付けられる。いずれも、各法改正に適切に対応できるよう、しっかりと備えることが大切だ。