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税理士さんに聞きました!! インボイス制度、電子帳簿保存法、やらないとどうなるの?

2023.10.13
オフィスのミカタ編集部

インボイス制度(適格請求書等保存方式)、改正電子帳簿保存法の基本については「総点検! インボイス制度と電子帳簿保存法を国税庁で確認しよう」でおさらいした。今回は「目的は?」「やらなかったらどうなるの?」など編集部が抱いたキホンの疑問を、Gemstone税理士法人 公認会計士・税理士 石割 由紀人さんに聞いてみた。

※本記事は「オフィスのミカタ通信vol.9」からの転載です。

インボイス制度の目的【1】 複数税率への対応

インボイス制度に関してそもそも認識しておかなければならないのは、「基本的に商取引には消費税は発生」しているということ。当たり前のことなのだが、その消費税は「国内において事業者が事業として対価を得て行う取引を課税の対象」(国税庁)とされており、「商品などの価格に上乗せされた消費税と地方消費税分は、最終的に消費者が負担し、納税義務者である事業者が納め」(同)ることになっている。

要するに「消費税」にまつわるインボイス制度は、国が定める以上、その目的は「税金の正しい徴収」なのだ。

Gemstone 税理士法人 公認会計士・税理士 石割由紀人氏は「インボイス制度の立法趣旨は大きく2つ。1つは『複数税率への対応』です」という。

複数税率は言い換えるなら軽減税率で、2019年10月に消費税率が10%に引き上げられた際、「所得の低い方々への配慮の観点から、飲食料品(お酒・外食を除く)等の購入に係る税率については8%とする軽減税率制度を実施」(財務省)したもの。

ご存じの通り、同一店舗(売り手)の取扱商品でも、販売するものによって税率が異なることはよくある。売り手側は1度の取引(買い物)でも税率が複数関わるのであれば、その正確な課税額を把握(提示)する必要がある。しかし従前の制度では税率ごとに消費税額を記載する義務がなかったため、正確な課税額の把握(提示)が困難だった。

それがインボイス制度の導入により、税率ごとに消費税額の記載が義務付けられ、正確な消費税額の把握が買い手からも徴収側からも可能になったというわけだ。

インボイス制度の目的【2】『益税の解消』

「インボイス制度の一番大きな目的は、『益税の解消』ですね。益税とは、事業者(買い手側、お金を受け取った側)の手元に合法的ではない形で残り、利益になっている消費税のことを指します。免税事業者は本来納めるべき消費税を免税されていますが、その一部が納税されずに事業者の利益となってしまってきていることが問題だったのです」(石割氏)。過去の研究では、益税額だけで約5000億円(2005年、消費税率5%時点)とする推計もあり、消費税収の5%を占めていたともされている(鈴木善充「消費税における益税の推計」会計検査研究(43),45-56, 2011-03)。

「益税を得ていた人たち──今まで消費税を払ってなかった、年収1000万未満の人たちにも、正しく消費税を負担してもらおうというのが、今回のインボイス制度といえますね」(石割氏)。

インボイス制度に対応できるよう、売り手側(フリーランスや小規模事業者、個人事業主)が登録番号を取得していれば、売り手が納税し、買い手は『支払税額控除』が受けられるわけだが、登録していない状態で消費税を上乗せして請求書を発行すると「少々衝撃的な言い方をするなら『偽造インボイス』といわれる状態になります」と石割氏。

「登録されていない売り手に消費税を支払うと、買い手(企業)側は『仕入税額控除』が受けられなくなってしまいます」(石割氏)

仕入税額控除が受けられないとしても、その外注先に専門性があると判断すれば、経済合理性から発注元が消費税分を負担する形で依頼することはあり得るが、一般的には非登録事業者への発注頻度が減る可能性は十分ある。売り手にしても買い手にしても、「より正しく消費税を納め」ざるを得ない制度であり、対応しなければ少なからず、売上が減少するといえる。

電子帳簿保存法の勘違い!? 帳簿書類の電子化がOKなだけ

インボイス制度はどこまでも「納税の義務」を感じるものだが、電帳法はどうだろうか。そう、これもまた、「検索性を上げて、正しい徴税を行えるようにするための改正」といえそうなのだ。

電帳法に則る保存区分は主に

の3種類があるが、①は「電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存」する方法で、例えば会計ソフトなどで作成した帳簿、決算関係書類などを「電子データのままで保存する」こと。②は「紙で受領・作成した書類を画像データで保存」すること。③は「電子的に授受した取引情報をデータで保存」することで、例えば領収書や請求書、納品書などを紙でやりとりしていた場合は紙を保存していたはずだが、それがデータだった場合は「電子取引」とみなされ、そのデータをそのまま保存しなければならないというものだ。

ただ、例えば「ネット通販でのやりとりはデータ保存が必要」というわけではない。あくまでも領収書などをデータで授受した場合が対象なので、「全部電子化して保存しなければ!!」と慌てる必要はない。

「このところ全ての取引情報を電子化しなければならないのではないかと思わせるような情報も出回っています。でも、電子取引データの保存だけが義務化なのであって、紙で保存する条件が整っているものについての電子化は強制ではありません。とはいえ今後、国としては全てのものを電子化することで、検索性を高めて税務調査の精度を上げたいという意向はあります」(石割氏)

よって現段階で慌てて「全ての取引情報を電子化」する必要はないものの、中長期的にはやはり、DXを進めていく必要があるだろう。

石割氏は最後に「令和5年度については、大きな改正がないものとみており、まずは今年の対応を十分注意したいところです。例えば、インボイス登録をしていないのに仕入税額控除を取ってしまうなどシステムで対応しないと難しい業務については、ミスが出ないよう注意しましょう」とした。


Gemstone税理士法人 公認会計士・税理士 石割由紀人


法政大学経営学部経営学科卒。青山監査法人(現あらた監査法人)を経て、2003年9月石割公認会計士事務所設立代表就任(現任)。2008年6月株式会社駐車場綜合研究所(マザーズ)監査役就任。2015年6月ブティックス株式会社(マザーズ)監査役就任。2015年12月Gemstone税理士法人設立入所(現任)。多数の上場企業・上場準備企業、スタートアップ企業を社外監査役や顧問税理士として支援している。特にスタートアップ向けの資本政策アドバイス、株価算定(みなし清算条項優先株式評価含む)、ストックオプション導入支援(信託型、有償ストックオプション含む)について業界屈指の実績を有する。

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