職場の人間関係が希薄化している? 企業を取り巻く環境変化、調査レポート
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(本社:東京都品川区)組織行動研究所は、「職場におけるソーシャル・サポート実態調査」を実施。従業員規模300名以上の企業、20~40代の会社員603名を対象としている。
「職場における人間関係やサポートし合う風土を醸成するためのポイント」など、職場の人間関係について調査し内容を公表した。
■「職場の人間関係の希薄化が進んでいる」と感じている人が多い?
ソーシャル・サポートは、「個人が、他者から愛され、大切に思われている、尊敬されている、あるいは相互支援や責任の社会的ネットワークの一員である、などを知覚、経験すること」と定義されている。このソーシャル・サポートが健全な企業経営のために必要だと株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所は考えている。
「仕事をしていく上では周りからのサポートが必要不可欠である」「私たちは誰かに守られているからこそ探索や挑戦ができる“セキュアベース”という考え方が、新しい価値を生み出すことに繋がる」「上司や同僚からの肯定的な言葉によって自分の可能性に気づき、自信をもって物事を進めることができるようになる」と考えているからだ。
しかし、会社が全面的に頼れる存在でなくなり、会社側も全面的に依存されても困るというメッセージを出している今、職場の人と全面的な付き合いをすること自体がリスクとなっているようだ。そのため、「毎日顔を合わせる職場の人たちとは適度な距離感を保つ方がいい」と考える人が多くなったのではないだろうか。
同社はそのような背景をふまえ、職場でのソーシャル・サポートの実態を捉えるため調査を実施した。
■「5年前より職場の人間関係が希薄化している」と感じているのは、全体の半数弱
「5年前と比べて職場の人間関係が希薄化しているかどうか」という質問をしたところ、半数弱の44.6%が希薄化していると回答。その属性を確認したところ、男性、年齢が高い、社歴が長いほど希薄化していると回答していることが分かった。
■希薄化を感じる理由に「労働時間や忙しさ」「仕事以外の対話機会」
希薄化を感じる理由として、「労働時間や忙しさ」「業績圧力」「仕事以外の対話機会」「人員構成」に関するコメントがあった。希薄化していないという理由の中には「ずっと希薄で変わらない」という意味合いでのコメントも散見され、多くの人が職場の人間関係は希薄であると感じているようだ。
■人間関係構築に役立っている制度・仕組みに「定期的な面談」
人間関係構築や必要なサポートの獲得に役に立っている制度・仕組みとして、導入割合・役立ち度ともに高いものとしては、「上司との定期的な面談」「定期異動・ローテーション」「集合研修・ワークショップ」があげられた。
導入割合がそれほど高くはないものの役立ち度が高いものとしては、「社員同士での飲食の金銭的補助」「社員が集まる場所の設置」「社員による自主的な勉強会」「社内コミュニケーションツール」「業務以外の社内コミュニティ」「会社主催の懇親イベント」などがある。
職場で必要なときに必要なサポートを受けられると思えるかどうか、自分からサポートを求めることができるかどうかは、職場の人間関係や個人の意識と関係する部分も大きいが、全社的な制度・仕組みを通じて、人間関係構築やサポートし合う風土が醸成できる可能性があるようだ。
■ソーシャル・サポートの実態
サポート内容を「直接サポート」「情報サポート」「情緒的サポート」「評価的サポート」の4種に分類し、調査を実施。
「直接サポート」「情報サポート」「評価的サポート」は、上司への期待が最も高く、特に「評価的サポート」は半数近くの回答者が上司に対して求めている結果となった。
精神的な支えとしての「情緒的サポート」は、同じ職場の同僚への期待が最も高い。また、社外の知人・友人や家族に対して求める回答割合も高いようだ。
■5 人に1人は「支援を求めない」
勤務先企業における援助要請行動について聞いたところ、「どちらかといえばしている」も合わせると4人に3人は援助要請をしていると答えた。
一方で、5人に1人は援助要請していないようだ。していない理由として多く選ばれたのは、「皆、自分のことで手一杯で、声をかけづらい雰囲気があるから」。さらに、「信頼関係が築けていない」が続く。成果基準に関するものも多く選ばれているようだ。本人の意識としては、「助けを求めること=能力が低いと思われてしまいそう」といった自尊心を脅かすようなものが相対的には多く選ばれている。
■サポートをし合える職場づくりの大切さに目を向ける
人と人とが支え合うことのメカニズムや心身の健康をはじめとした効用について、「ソーシャル・サポート」という概念を用いて研究が行われているようだ。その多くは、健康や医療などの分野でのもので、日本の企業組織における研究はあまり進んでいないそうだ。今回の調査は、職場でのサポートの必要度や充足度、サポートを求める「援助要請行動」の実態を明らかにすることを第一の目標として実施された。
職場で必要なときに必要なサポートを受けられると思えるかどうか、自分からサポートを求めることができるかどうかは、職場の人間関係や個人の意識と関係する部分も大きいが、全社的な制度・仕組みを通じて、人間関係構築やサポートし合う風土が醸成できる可能性があると主任研究員 藤村直子氏は話す。
■ソーシャル・サポートが組織の長期的な発展につながる
そもそも人間関係はストレスのもとになる、と所長 古野庸一氏。そういう意味において、職場で適度な人間関係を保つことは一概に悪い話ではないようだ。
しかし、健全な経営という観点では、職場で働いている人は、互いが互いに関心を持ち、ソーシャル・サポートを行ったほうが良いというのが古野氏の見解だ。組織に対して貢献できていない人は、サポートが必要にも関わらず、サポートを頼めない傾向があり、ますます貢献できない。また、誰かに守られているという安心感があると、私たちは探索できるし、挑戦ができる。守られていないと思えば、無難な仕事に従事し、新しい価値を生み出す行為はできなくなると主張する。
貢献できていなくても気軽にサポートが頼めるという観点。そして誰かに守られているという安心感から挑戦できるという観点。二つの観点から、ソーシャル・サポートは、健全な経営を行うには欠かせない要素であると考えられるようだ。
■まとめ
職場内での人間関係が希薄になっていると感じている人が多い中で、やはり相互のサポートがあってこそ企業経営は成り立つと語る株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所の職員たち。
今回の調査を参考に、自社で取り組むべき制度や取り組みは何かを、今一度見直してみてはいかがだろうか。