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これからの「採用」はどう変わるのか?⑦~職場が採用活動を主導する「職場スカウト採用」

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。その中で、我々が働く環境も変化を遂げつつあり、個人の「働く意識」が問われ始めています。
 そんな中、採用手法の新たな進化が始まりつつあります。人事主導ではなく、職場が採用活動を主導する「職場スカウト採用」とはどんなものなのか、詳しく解説したいと思います。

将来の上司や同僚が採用現場に出て「リアル」をさらけ出す

 深刻な人材不足、それに伴う人材獲得競争の激化が続いています。以前この場でも触れましたが、2社に1社は計画通りの採用人数が確保できなくなっている時代。そして、せっかく新しい人材を迎え入れてもすぐに辞めてしまう時代です。従来の採用手法のままでは、優秀な人材の獲得や、早期活躍・定着を実現することが難しくなっています。

 そんな中、注目されているのが「職場スカウト採用」。従来のように人事だけが孤軍奮闘するのではなく、配属先の上司や同僚が採用活動を主導して、職場全体でありのままを見せて採用するという新たな採用手法です。

 従来の採用は、自社の「会社概要」をもとに人事担当者が仕事内容や待遇などを一方的に伝え、求職者側も自分自身をさらけ出さず取り繕って伝えるという方法が主流でした。しかしこれからは、将来の上司や同僚がリアルな仕事内容や、普段の職場の雰囲気、習慣などを求職者に伝え、入社前の時点で認識をすり合わせておくことで入社後のミスマッチを起こさないようにするという、職場単位の採用が主流になるとみられます。

求職者は、入社前に職場長や同僚と会話する場を求めている

 企業にとっては、採用はもちろん「定着・活躍」が大きな課題になっています。「せっかく入社したのに、なぜすぐ辞めてしまうのか?」の答えは、求職者の声の中にありました。

 以前もご紹介しましたが、リクルートキャリアが転職決定者1343名に行った「転職者の転職先でのとまどいランキング」によると、最も多かったのは「前職との仕事の進め方ややり方の違い」、続いて「社内用語や業界用語など、専門知識がわからない」、「職場ならではの慣習や規範になじめない」という結果が出ています。面接の場で人事がいくら会社概要や仕事内容を詳細に伝えたところで、入社後には「職場のならわし」にとまどってしまう。これをいかに事前にすり合わせられるかが大事、ということがわかっています。

 さらに「面談・面接の際に要望したいこと」という質問には、「配属される職場長と直接会話ができる場」「配属される職場メンバーと直接会話ができる場」が上位を占めるという結果になりました。つまり、求職者は皆、配属先の“本当のところ”を知りたがっているのです。

会社単位から職場単位へ…「採用の単位革命」が起こっている

 このような求職者の声に対応し、入社前に職場情報を開示する企業が増え始めています。

 例えば、「社会人インターンシップ」という名目で仕事や職場を体感できる機会を設ける企業や、HRテックを使ってスカウト採用を導入する企業などが目立っています。前者については、これまでは「入社前に職場や仕事内容を開示するのは情報漏洩リスクにつながる」と躊躇する企業が多かったのですが、「リスクよりも入社後活躍のほうが大事」と考えを改める企業が増えていること示しています。また後者においては、求職者を「将来のチームメイト」として捉え、社内コミュニケーションツールなどのチームコラボレーションツールを共有するケースが増えています。

 これらの動きを、私は「採用の単位革命」と呼んでいます。すなわち、「会社単位」でマッチングするのではなく、「職場単位」でフィッティングする、ということ。会社という大きな枠ではなく、求職者が知りたいと思っている職場単位で現状をさらけ出して共有し、洋服や靴を試着するように本当に自分に合っているのか、サイズが合わなかったり靴擦れしたりしないか、一緒にフィッティングしていく…今がちょうど、採用の世界観が変わる転換点にあるのではないかと見ています。

体験入社、ワークショップ…徹底した情報開示が「入社後定着」を生む

 「職場スカウト採用」を実践し、成功している企業の事例をいくつかご紹介しましょう。

 あるグルメサービス会社では、希望者全員に「1日体験入社」の機会を提供しています。同社の中途採用はエンジニアがメインであるため、求職者と社員が一緒にプログラミングを実施。仕事内容や職場の雰囲気はもちろん開発環境や手法、使用ツールなどが理解できることから、「入社後のイメージがリアルにつかめた」と好評を得ています。さらに、入社前から現場社員がビジネスチャットで業務の疑問に対応しています。

 ヨガスタジオを展開する会社では、転職潜在層である社外のマーケティング職従事者を招き、自社マーケティング部門が抱えるリアルな課題をテーマにディスカッションを実施。ディスカッションの前には、マーケティング責任者が事業背景を説明し、企業戦略自体を詳しく開示しました。参加者からは、外からでは見えない同社の課題と戦略、マーケティング手法が詳細につかめたという声が上がっています。社外参加者のアイディアを実際に活用するケースもあり、オープンイノベーションの役割も果たしています。

 ある大手エレクトロニクスメーカーのAI部門では、求職者に対してAI部門のトップを交えた共創型ワークショップを開催。都市問題をテーマに話し合うとともに、責任者自らが自社のAIの知見や技術を活用した課題解決事例を紹介しました。オープンにデータを開示しながら、自社の「考え方の経路」を明らかにすることで、仕事内容だけでなくAI部門としての考えや姿勢が伝わり、求職者に「堅いイメージから、先進的で柔軟な組織というイメージに変わった」と好印象を与えることに成功。採用だけでなくブランディングにも成功しています。

 これらの事例からわかるように、先進的な企業ではいち早く採用手法の進化に取り組んでいます。未だに人事だけが孤軍奮闘している会社と、職場主導で先進的な採用を行っている会社とでは、採用・定着において圧倒的な二極化が起こるようになるでしょう。

 会社主体の採用から、職場主体の採用へ。
 取り繕うマッチングから、さらけ出すフィッティングへ――。
 職場スカウト採用は、「個人の採用を活かし切る」企業進化の第一歩と言えるでしょう。