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有給休暇の時季変更権とは。トラブルにならないために企業ができること

2021.01.13
オフィスのミカタ編集部

 「年次有給休暇」(以下、「有給休暇」)は心身のリフレッシュを図ることを目的とした休暇で、企業は従業員が求める時季に取得させるよう定められている。しかし、事業の都合などによっては従業員の求めに応じることができず、有給休暇の「時季変更権」を使いたいと考えることもあるかもしれない。時季変更権はどのような場合に行使することができ、どのような点に留意する必要があるのだろうか。

 今回は、法令における有給休暇についての定めや、企業の時季変更権について解説する。トラブルを未然に防ぐために企業が行える対策も紹介しているので、従業員のスムーズな有給休暇取得のための参考としてほしい。

目次

●有給休暇は労働者の権利
●有給休暇の「時季変更権」とは
●トラブル防止のために企業ができること
●まとめ

有給休暇は労働者の権利

 有給休暇は労働基準法第39条によって定められた労働者の権利で、「雇入れの日から6カ月継続勤務していること」「全労働日の8割以上出勤していること」を満たす全ての従業員に付与される。まずは、有給休暇のポイントを押さえよう。

「年5日の有給休暇の確実な取得」が義務化
 2019年4月から、全ての企業に対し、年10日以上の有給休暇が付与される従業員に年5日の年休を確実に取得させることが義務付けられた。

 企業は「従業員自らの請求・取得」「企業による時季指定」「計画年休」のいずれかの方法で、従業員に年5日以上の有給休暇の確実な取得を促す必要があり、取得させなかった場合は対象従業員1人につき30万円以下の罰金が課せられる可能性がある。

 なお、時間単位で取得する「時間単位年休」と、企業が独自に設けた「特別休暇」は「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象外となることに注意が必要だ。

有給休暇は従業員が希望する時季に取得できる
 労働基準法および厚生労働省の資料によると、企業は従業員の有給休暇取得にあたり、面談やメールなどを通して従業員の意見を聴取し、できる限り希望に沿った取得時季になるよう努めなければならないとされている。また、精皆勤手当や賞与額の算定などの際に有給休暇を取得した日を欠勤として取り扱うなど、賃金の減額やその他の不利益な取り扱いをすることは禁止されている。

 従業員の請求する時季に所定の有給休暇を与えなかったり、有給休暇を取らせないために企業が「時季変更権」を濫用したりすると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられる可能性がある。

参考: 厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」

有給休暇の確実な取得のために、企業が「時季指定」を行うことも可能
 有給休暇が付与されてから一定期間が経過したタイミング(半年後など)で請求・取得日数が5日未満である従業員や、過去の有給休暇取得実績が著しく少ない従業員に対しては、「年5日の有給休暇の確実な取得」のために企業が時季を指定して取得を促すことも可能だ。

 ただし、すでに5日以上の有給休暇を請求・取得している従業員に対しては時季指定をする必要はなく、することもできないとされている。

計画的付与制度(計画年休)の活用
 計画的付制度(計画年休)とは、労使協定の締結により、企業が休暇取得日を前もって割り振ることだ。付与日数から5日を除いた残りの日数を対象とすることができ、「夏季、年末年始に計画的に付与し大型連休とする」「ブリッジホリデーとして3連休・4連休を設ける」などの方法がある。なお、計画的付与制度で取得した有給休暇も「年5日の有給休暇の確実な取得」の5日としてカウントされる。

参照: 「おさえておきたい!人事・労務の基礎知識Vol.6 年5日の取得が義務化された有給休暇 付与日数や計画有給制度の活用方法を詳しく解説」

有給休暇の「時季変更権」とは

 有給休暇の「時季変更権」とは、労働基準法第39条第5項に定められた企業の権利だ。企業は、従業員から請求された有給休暇の取得時季が事業の正常な運営を妨げる場合には、その取得時季を変更することが認められている。ここでは、企業の時季変更権について詳しく見ていこう。

「事業の正常な運営を妨げる場合」とは
 「事業の正常な運営を妨げる場合」としては、「同一期間に多数の従業員が休暇を希望し、その全員に休暇を付与すると通常の業務が行えない場合」「特定の従業員でないと対応できない業務がある場合」などが想定される。時季変更権を行使したい場合は、以下の項目を元に総合的に判断するとよいだろう。

・企業・事業所の規模
・業務内容
・該当従業員が担当する職務の性質
・業務の繁閑
・代替要員の可否
・同時季に有給休暇を希望した従業員数

参考: 厚生労働省「[28] 長期の年次有給休暇の請求と時季変更権行使」

時季変更権の行使が認められないケース
 法的には従業員の有給休暇取得の権利の方が強いため、以下のようなケースでは時季変更権を行使せず、従業員に有給休暇を取得させることが求められる。

・代替要員の確保が行える場合
・従業員の有給休暇が時効消滅してしまう場合
・従業員の退職が決まっており、退職予定日までの日数より取得すべき有給休暇の日数が多い場合
・企業の倒産などの理由で、時季変更権を行使すると有給休暇を消化できない場合
・時季変更権を行使することで、産前産後休業や育児休業の期間に重なる場合

 例として「繁忙期だから」という理由のみでは時季変更権の行使は認められず、「代替要員の確保が困難」など「その従業員が勤務をしないと通常の業務が行えない」理由が必要となる。

トラブル防止のために企業ができること

 安定した業務と従業員のスムーズな有給休暇取得を実現させるためには、企業によるさまざまな工夫が必要だ。企業と従業員間のトラブルを未然に防ぐために、企業が行える対策を見ていこう。

就業規則に「時季変更権」について明記しておく
 労働基準法第89条により、休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項に定められているため、企業は有給休暇についても、対象となる従業員の範囲や時季指定の方法、時季変更権について記載しなければならない。

 例として、「従業員が申請した時季に年次有給休暇を取得させることで事業の正常な運営を妨げる場合には、取得日を変更することがある」などと、有給休暇の時季変更についてあらかじめ明記し、従業員に対して周知しておくとよいだろう。また、有給休暇の申請期限を「○日前」などと定めておき、代替要員の確保やシフトの変更などに対応しやすくしておくことも大切だ。

有給休暇取得計画表を作成する
 有給休暇取得計画表を作成して従業員ごとの有給休暇の取得予定を明らかにすると、職場内において取得時季の調整がしやすいというメリットがある。繁忙期であっても企業にはできる限り従業員の希望に沿った有給休暇取得ができるような配慮が求められるため、事前に有給休暇の取得日を把握しておくことで、有給休暇の取得を前提とした業務体制の整備や、取得状況のフォローアップなどを行うことができるだろう。

「有給取得推奨日」を設定する
 年間の計画表に、有給休暇の取得を促す「有給取得推奨日」を設定するという方法もある。企業主導で有給休暇の取得を促すことで、従業員が有給休暇を取得しやすくなる、有給休暇取得日の管理がしやすくなるなどのメリットがあるだろう。年5日にとどまることなく、従業員がより多くの有給休暇を取得できるような環境整備に努めることが大切だ。

まとめ

 従業員が希望した時季の有給休暇が、事業の正常な運営を妨げる場合に限り使うことができる「時季変更権」。「繁忙期だから」といった理由のみでは適法と判断されにくいため、企業は代替要員の確保やシフトの変更などを行い、時季変更権の行使は慎重に行う必要がある。時季変更が必要な状況にならないよう、日ごろから業務や人員の調整ができる環境づくりを心がけ、従業員が気持ちよく有給休暇を取得できるよう努めよう。