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DXは目的ではなく手段! 紙とデジタルの共存を目指す、総務省行政管理局の「オフィス改革」【後編】

2023.09.13
オフィスのミカタ編集部

2015年から「オフィス改革」を継続しているテレワーク、ペーパーレス化について、オフィス改革を進める総務省 行政管理局。「紙を減らすことやDXを進めることを目的にしない」という、同局 管理官室の田村寿氏と池田南美氏に、これまでの経緯や現状について伺うインタビューの後編。

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完全なペーパーレス化よりデジタルとの共存を目指す

「オフィス視察に来られた方からはペーパーレス化の現状や、どのような効果があるのかについて質問いただく機会が多くあります。皆さん、ペーパーレス化の効果に興味を示されています」(池田氏)

ペーパーレス化の観点から、行政管理局では会議において「予約不要の会議室」「資料の電子化」「モニターを用いた会議スタイル」を採用している。

従来のスタイルであれば会議室の予約から始まり、会議室と日時の連絡、資料の作成と印刷、資料の配布、会議後の資料の修正と確認という多くのプロセスが発生していた。しかし現在のスタイルにしたところ、電子化した資料はモニターに映して共有でき、修正も会議中に行えるため約32%の業務時間削減を実現できた。

池田氏によると、会議室の予約については収容人数が多い会議室や、吸音材やブラインドを設置している機能性の高い会議室のみ予約可能としているそうだ。他の会議室は空いていれば自由に使えるようにし、手間のかかる予約業務を削減している。

また、ペーパーレス化を進めたことでスペースも効果的に活用できている。背丈を超えるような個人ロッカーを小さいロッカーに統一し、紙媒体の資料の書類棚を削減して会議スペースや個室ブースを増設した。最終的に会議スペースは31㎡から93.1㎡と約3倍に広がっている。他の省庁では会議室不足の声が挙がるケースもあるようだが、行政管理局ではそのような声は聞かないそうだ。

ただし、オフィス改革チームでは完全なペーパーレス化を追求しているわけではない。外部からもらう資料が紙媒体のこともあれば、参考文献を紙媒体で管理した方が効率良く業務を遂行できるケースもある。ケースバイケースで適切な媒体を使用するため、ある程度の紙媒体を保管するラックは残している。ペーパーレス化のためのオフィスではなく、紙と共存できるオフィスが理想像だ。

新型コロナ禍でテレワーク定着画面共有前提の資料作成も

行政管理局では2017年時点で、半年間でのテレワーク実施者数が19人から74人へと約4倍に増加。新型コロナウイルスの感染拡大によって急な働き方改革を迫られた企業とは異なり、すでに確立されていたといえる。

「新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークの推奨が進みました。現在でもテレワークの活用は続けられており、個人の業務バランスによって自由に決められます。以前からテレワークの制度はあったのですが、コロナ禍を機に働き方の選択肢として、職員の中で一般化したといえると思います」(池田氏)

しかし、テレワークにはコミュニケーション面で課題がある。会議や打ち合わせにおいては現場にいない分、雰囲気や温度感が伝わりにくく、発言が出なかったり被ってしまったりするそうだ。そこで「議題や要点を事前に共有すること」「あいづちを行い、チャットでも反応を示すこと」「司会は発言者を指名すること」などを意識している。また、参加者が異なる資料や画面を見ていることもあるため、画面共有を前提とした資料作成なども大切だ。

業務の進捗管理や仕事の進め方においても課題はある。テレワークだとお互いの状況が見えないため、誰がどの業務を行っているのかを把握することが難しく、部下から上司に相談しづらいことも課題の一つだ。行政管理局ではスケジューラーを積極的に活用。個人作業の予定も共有スケジューラーに入れ、応対の可否をアプリ上のステータスで示すことで相談しやすい環境をつくっている。また定例会議で進捗報告を行ったり、簡単な業務日報を取り入れたりすることも状況把握には効果的だ。

「例えばワークショップの研修などがあったら、そのときのメンバーでグループチャットを作成します。こうしたあらゆる経歴の職員が参加するグループチャットを活用することで、職員間のコミュニケーションを活性化させています。個人的にはさらに、グループチャットの活用により、部局が違う職員同士がつながることも、重要と考えています」(池田氏)

職員一人ひとりが主人公の職場環境だから声を上げやすい

行政管理局では、オフィス改革チームだけが先行して改革の実行を進めることはしていない。ビジョンに合った「職員の声」をオフィス改革に反映させるため、日頃から職員がオフィス改革に関して声を上げられる環境だという。

「職員が主人公であるため、レイアウトなどを変更する際に、それを機会と捉え、働きやすさに関するアンケートを取っています。実際に、Web会議が増えたため、機密性の高い会議時に使用できる音漏れのしない個室ブースが欲しいといった声がアンケートを通して多く寄せられました」(田村氏)

オフィススペースは限られているため、職員の要望のある設備を増設するには限界がある。しかし、ペーパーレス化が進むことでスペースが生まれ、職員が活き活きと働ける職場環境のための設備を増設できるようになった。

オフィス改革により残業時間は月平均約15%削減

行政管理局では、職員一人ひとりを主人公と考え「働く職員が活き活きと楽しく働ける職場」を目指している。オフィス改革を進めた結果、2017(平成29)年度時点で月平均の残業時間を約15%削減できた効果も、職員が活き活きと働ける要因の一つだ。

近年はDXを目的としてツールを導入したり、ペーパーレス化を図ったりしている企業が多い。しかし、オフィス改革チームは紙媒体をなくすことが目的ではないという。

「DXを目的としてペーパーレス化やWeb会議などを取り入れているわけではありません。職員の働きやすさや業務の効率化を追求した結果、DXが進んでいたのです」(池田氏)

「自治体の行政では、窓口に来る市民や個人情報管理の観点から紙媒体の体制をとっていることもあるでしょう。実際に当局では調べものをする機会が多いのですが、参考文献は紙で購入して共用図書として管理もしています。しかしテレワークが浸透した結果、デジタルで管理する方が効率的な文書もあるので、媒体の役割を考えながら使い分けています」(田村氏)

とにかく大切なのは、紙を減らすことやDX を進めることを目的にしてはいけないということだ。オフィス改革チームのように「職員が活き活きと働くため」や「多用な働き方を実現するため」には何が必要かを軸に考え、その手段がDXであることを忘れてはならない。

今後はオフィスに視察に訪れなくても総務省が取り組んでいるオフィス改革が理解できるように、ホームページ上でのコンテンツを充実させることを検討している。総務省行政管理局のオフィス改革チームの動きは、これからも注目だ。

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