AI活用で人が育たなくなる? パーソル総研が指摘する「AI時代の人材育成」のジレンマ
AIの普及によって、仕事の効率化が進む一方、「AIを使うほど人が育ちにくくなる」という新たな課題も見え始めている。AIに任せることで、これまで仕事を通じて身につけてきたスキルや経験まで失われる可能性があるというのだ。10月7日に開催されたパーソルホールディングスの報道関係者向けランチブリーフィングから、「AIと働く」をテーマに語られた内容の一部を紹介する。
AI活用の裏側で進む「アンチ・スキリング」
AIの活用が広がる一方で、企業では「AIを使うことで、かえって人が育たなくなる」という新たな課題も浮かび上がっている。パーソル総合研究所 主席研究員/執行役員の小林祐児氏はこれを「アンチ・スキリング」と表現し、5つのパターンを挙げる。
既存のスキルが低下する「デスキリング」、AIから誤ったスキルや偏った知識を学ぶ「ミススキリング」、若手が本来経験すべき仕事を経験できなくなる「ネバースキリング」、AIによって簡単に成果が出ることで成長したと錯覚する「シュードスキリング」、そしてAI任せになり、学びが受け身になる「パッシブスキリング」だ。
AIは業務を効率化する一方で、使い方によっては人がスキルを身につける機会そのものを奪う可能性がある。なかでも小林氏が問題視するのが、AIへの依存が進むことで「自分で考える」「自分で判断する」といった経験までAIに委ねてしまうことだ。
「まずAIに聞く」が考える機会を奪う
AIへの依存は、すでに具体的な行動にも表れている。2026年春にパーソル総合研究所が実施した「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」では、「人よりAIに話すほうが気楽に感じることがある」がAIの利用頻度が高い層で31.6%に達した。
また、「迷ったとき、自分で決めるよりAIの方向に従うほうが楽だ」「仕事の課題を、自分で考える前にまずAIに聞くことが多い」といった項目でも、利用頻度が高い層ほど割合が高くなっている。
AIは単なる業務効率化の道具ではなく、考える、相談する、決めるといった行為にも入り込んでいる。小林氏は、AIについて「使えば使うほど、どんどんこのような状況になっていく」と指摘する。
AI普及で起こる「スキルのだるま落とし」
では、AIの過剰な利用によって具体的に何が起きるのか。小林氏は、仕事を通じて身につくスキルが下から順番に失われていく状況を「スキルのだるま落とし」と表現する。
これまでの仕事では、まず簡単な作業を経験し、そこから徐々に難しい仕事を任されることで、判断力や応用力を身につけてきた。しかし、AIが資料作成や情報整理、文章作成などの下位タスクを担うようになると、単に作業がなくなるだけではない。その作業を経験することで得られていた学習機会まで失われる可能性がある。
そこで重要になるのが、「タスクそのもの」と、そのタスクを取り巻く仕事を分けて考える視点だ。小林氏は、AIに任せられるタスクの周辺には、人間が担うべき「メタタスク」があると指摘する。
「AIが行ってくれるタスクに対するメタタスクをやるのが人の仕事です」
例えば、仕事全体を整理して「集める」、AIの出力を検証して「確かめる」、何を実行するか「決める」、結果を「説明する」。そして、現場に出て自ら「動く」。こうしたタスクの前後にある仕事こそ、AI時代に人間が担う重要な役割になる。
つまり、「だるま落とし」で下からタスクが抜かれていくほど、最後に残るのは単純な作業ではない。何をAIに任せ、何を人間が判断し、結果をどう確かめるのか。仕事全体を設計し、AIの仕事を人間の仕事につなぐ力が問われることになる。
「AIから引き剥がす」ことが人材育成の新たなジレンマに
AIを使えば使うほど仕事は効率化する。一方で、AIに任せることで、人が経験を積む機会は失われる。そこで企業には、「AIを使わせる」だけでなく、あえてAIから離れて考える、判断する、現場で経験するといった機会をどう設けるかが問われる。
小林氏は、この状況を人材育成上のジレンマとして捉えている。
「AIから引き剥がさないと人が育ちそうにない。AIから引き剥がさないとAIを真に活用する人が育たないというジレンマです」
AIを使わない時間をつくることは、AIに逆行することではない。むしろ、AIの出力を評価し、使いどころを判断し、仕事に生かすためには、AI以外の方法で考える経験も必要になる。
「AIを使いこなすためにAI以外の頭をどう使わせるか、もしくは経験をどうさせるか」。AIの活用が当たり前になるほど、企業にはAIを使わせるだけではなく、AIを使わずに考え、判断し、経験する機会をどう設計するかが求められる。AIと人、それぞれの強みを生かすための人材育成が、これからの企業にとって重要なテーマになりそうだ。










