働く人の健康を、個人任せにしない ウェルビーイングを支えるオフィス「TOFROM YAESU TOWER」の仕掛け
人材の確保・定着が企業の重要課題となるなか、働く人の健康を支えるオフィス環境への関心が高まっている。1万人を対象にした大規模調査に基づき、オフィスワーカーのウェルビーイング向上を重視して設計された「TOFROM YAESU TOWER(以下「トフロム八重洲タワー」)のオフィスフロアから、その具体策を紹介する。
1万人を対象にした大規模調査から、ウェルビーイングをサポートするオフィスを設計
2026年9月10日、東京駅八重洲口前に開業した地下4階、地上51階、高さ約250mのトフロム八重洲タワー。オフィスをはじめ、医療施設、劇場、カンファレンス、バスターミナル、商業施設など多様な都市機能を備える八重洲エリア最高層の大規模複合施設だ。
同ビルは地下1階から3階までが商業エリア、14階から19階が同ビルの主要な開発事業者(デベロッパー)である東京建物株式会社(以下「東京建物」)の自社フロア、9階から50階までが同社がリーシング事業を担っているオフィスフロアだ。東京建物は自社フロアとオフィスの共用部全体を、予防医学研究者の石川善樹氏の監修に基づいた「ウェルビーイング」というコンセプトを取り入れて設計した。
同社では首都圏で働くビジネスパーソン1万人を対象にした大規模調査を実施し、予防医学研究者の石川善樹氏ら共同研究者の監修のもと、個人の状態を可視化する「ウェルビーイングスコア」や、20の「ウェルビーイング向上因子」を特定。トフロム八重洲タワーオフィスフロアでは、これまで各企業が個別に取り組んできたウェルビーイング向上施策を見直し、オフィス全体でサポートすることを目指している。
心身をリフレッシュする41階の「YAESU SKY LOUNGE」
共用フロアでオフィスワーカーの心身のコンディションを整える拠点となるのが、地上約190mに位置し、東京湾を望む眺望と多彩な緑に囲まれた41階の「YAESU SKY LOUNGE」だ。朝8時から夜10時までの利用を想定し、軽食の提供も行う(有料)。日中はコンシェルジュが常駐し、利用者の相談に対応する体制も整えている。
さらに、打ち合わせや会食などに利用できる個室空間「プライオリティラウンジ」も用意。個室空間の「リトリートルーム」には、温泉資源庁との協業による温泉ミストを活用した「喫泉室」を設け、気軽に湯治体験ができる環境を整えた。また、マインドフルネスアプリを手掛けるアップマインドの監修・運用による瞑想・仮眠プログラムも提供予定だ。仕事の合間に短時間でも心身を休められる場所を、オフィスの中に確保する。こうした環境は、休息のためにわざわざ外出する時間を取りにくいワーカーに歓迎されそうだ。
食事から交流まで、多様な過ごし方を支える13階「Wab.」
働く人の心身の健康と、人や社会とのつながりを支える共用スペースとして設計されたのが、13階の「Wab.」。ワンフロア約2500平方メートルの空間に、飲食施設やラウンジ、会議室、イベントスペースなどを集約している。
飲食面では、利用シーンや個々のニーズに応じて利用できるよう、さまざまなスタイルを展開。Wab.の顔となるオールデイカフェ「waboカフェ」を始め、量り売り等のデリスタイルで食事を提供する「グラムデリ」、健康を重視した3つのカテゴリの定食が食べられる「ウェルビーイングキッチン」、クイックメニュー系の食事ができる「サイドディッシュ」から選んで利用できる。
また独立した「ラボキッチン」では、食をテーマにしたイベントやワークショップを開催予定。最大100人を収容できる「wabo hundred」などのイベントスペースも備え、企業やワーカー同士の交流を促す場として活用される予定だ。
大企業からスタートアップまで、多彩な専門性を生かした協業も
Wab.では施設側だけですべてを完結させず、各分野の専門性を持つ企業やスタートアップとの協業を重視していることも斬新な取り組みといえる。
例えば、キリングループとは、プラズマ乳酸菌を活用した免疫ケアドリンクやフードを開発し、国内のオフィスとして初めて食堂で提供する取り組みを進めている。お茶の生産から販売までを手掛けるティールームとの協業では「オフィスで茶の間」を展開する。また、海の生態系回復と食文化の創造を目指すシーベジタブルと連携し、海藻を使ったメニューを提供。環境再生型農業で生産された食材の活用にも取り組む。
フロアに訪れた瞬間からリラックスできる設計
食事以外にも、休憩、会議、交流といった日常の行動を、健康やコミュニケーションの向上につなげる設計がされていることも大きな特色だ。アートやグリーンをテーマにした会議室、音楽と映像によって集中やリラクゼーションを促す個室ブース「ビポッド」など、目的に応じて選べる環境を整えた。東京建物の都市開発事業第一部八重洲一丁目東プロジェクト推進室 魚住俊介課長は「多様なパートナーの知見を取り入れることで、ウェルビーイングの取り組みを継続的に更新していきたい」と語る。
「働く場所」から「人の力を引き出す場所」へ。働きやすさが企業の競争力に
東京建物のこうした取り組みの背景には、東京都心部でのオフィス需給の逼迫がある。直近の調査では、都内のオフィス空室率は1.4%と、歴史的にも非常に低い水準にあり、賃料も上昇傾向が顕著。企業の移転理由も変化しており、好調な業績を背景とした事業規模の拡大だけでなく、人材採用の強化や、ワーカーのストレス軽減による雇用の維持、生産性の向上など、人材戦略の一環としてオフィスに投資する動きが広がっているという。
「我々の立場からすると、まずはリーシングの段階で、数あるビルの中からトフロム八重洲タワーを選んでいただくことが重要です。一方で、実際に入居していただいてからが本当のスタートであり、入居後に評ご価していただくことも同じくらい大切だと考えています。テナント企業様側にとっても、共用施設やサービスを福利厚生の一環として活用していただくことが、社員の力を引き出す健康経営につながります。それが結果的に、我々にとってのリーシング力にもつながっていくと考えています」(魚住課長)。
オフィスを「仕事をする場所」から「働く人の力を引き出す場所」へと変化している。TOFROM YAESU TOWERの試みは、これからのオフィスづくりを考えるうえで、一つのヒントとなりそうだ。











