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【2023年4月】残業代の割増率50%が中小企業にも適用拡大!対応のポイントは?

2023.02.27
オフィスのミカタ編集部

2023年4月より、中小企業における残業代の割増賃金率が50%に引き上げられる。これは、働き方改革関連法の施行による決定で、これまで適用が猶予されていた中小企業を含む全ての企業が対象だ。これまで適用されていなかった企業に勤める人は、具体的な変更内容や、割増賃金率の引き上げが必要なケースなどを詳しく知りたいのではないだろうか。本記事では、対象となる企業の規模や、具体的な計算方法などを解説するので、参考にしてほしい。

目次

●中小企業でも月60時間を超える残業の割増賃金率が引き上げに
●割増賃金引上げ後の残業の計算方法
●割増賃金を支払いに代えて付与可能な「代替休暇」を活用しよう
●企業には残業抑制への取り組みが求められる
●まとめ

中小企業でも月60時間を超える残業の割増賃金率が引き上げに

2023年4月から中小企業でも対応が求められる、割増賃金率の概要をみていこう。

中小企業にも月60時間超の残業に対する割増率50%が適用

労働基準法において、従業員に月60時間を超える残業をさせた場合、60時間を超過した分の残業代の法定割増賃金率は50%以上とすることが定められている。これは、2019年に施行された「働き方改革関連法」に基づくもので、長時間労働の是正が目的だ。経営力などへの配慮から中小企業に対しては2023年3月31日まで措置が猶予されていたが、2023年3月に猶予措置が終了し、4月以降は中小企業も対応しなければならない。
(参考:厚生労働省『月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます』

対象となる中小企業
割増賃金率の変更対象となるのは、以下の中小企業だ。

<小売業>
資本金の額または出資の総額が5,000万円以下で、常時使用する従業員が50人以下

<サービス業>
資本金の額または出資の総額が5,000万円以下で、常時使用する従業員が100人以下

<卸売業>
資本金の額または出資の総額が1億円以下で、常時使用する従業員が100人以下

<上記以外のその他の業種>
資本金の額または出資の総額が3億円以下で、常時使用する従業員が300人以下
(参考:厚生労働省『月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます』

自社が上記中小企業に該当するかを予め確認しておこう。

関連記事:『割増賃金とは?残業代の仕組みや正しい割増率による計算方法を解説!』
関連記事:『【働き方改革関連法】2023年4月の「法定割増賃金引上げ」に注目』

対象企業では就業規則の変更が必要
月60時間超の残業に対する割増率引き上げの対象企業拡大を受け、これまでの割増率を変更する場合には就業規則の変更も必要となる。また、就業規則を変更をした場合には、管轄の労働基準監督署への届出も必要となるため、忘れずに対応しよう。
(参考:厚生労働省『月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます』

関連記事:『社内規程の策定方法をステップで紹介。押さえておきたい注意点とは?』

割増賃金引上げ後の残業の計算方法

60時間を超える勤務に対する、残業代や深夜労働・休日労働の具体的な計算方法は以下の通りだ。

残業時間が60時間を超える場合の残業代の計算方法
【計算条件】
・残業の割増賃金率:60時間以下:25%、60時間超:50%
・1ヵ月の総残業時間が90時間
・1時間あたりの賃金は1,500円
・深夜/休日労働はない

【計算方法】
<1>60時間(60時間までの残業時間)×1.25(割増率)×1,500円(1時間あたりの賃金)=112,500円

<2>30時間(60時間を超える残業時間)×1.5(割増率)×1,500円(1時間あたりの賃金)=67,500円

この月に支払う残業代は上記<1>と<2>を足し合わせた、180,000円となる。

深夜労働を含む場合の計算方法
割増賃金率50%以上への引き上げ後、60時間を超えた残業のうちに深夜労働が含まれる場合にも、割増率が変動する。例えば、月60時間を超える残業を深夜22時から翌5時までに行わせる場合、以下の計算方法で深夜労働を含めた残業代を求める。

【計算条件】
・その月の残業時間が月60時間を超えていて、割増賃金率が50%、深夜割増賃金率が25%
・1時間あたりの賃金は1,500円
・9時から26時まで勤務した場合
・1日の所定労働時間は8時間

【計算方法】
<1>9時から18時までの勤務については、所定労働時間内のため、残業代は発生しない。

<2>18時から22時までの4時間の残業代
4時間(60時間を超える残業時間)×1.5(割増率)×1,500円(1時間日あたりの賃金)=9,000円

<3>22時から26時までの深夜労働に対する残業代
4時間(深夜労働時間)×1.75(50%+25%)×1,500(1時間あたりの賃金)=10,500円

<1>・<2>・<3>を足し合わせた、19,500円が上記条件において支払うべき残業代となる。

休日労働を含む場合の計算方法
1ヵ月の残業時間が60時間超えた後、休日労働をさせた場合、休日労働に対する割増賃金率は35%のままとなる。ただし、これは法定休日の場合に限られる。月60時間の残業を超えた後、会社が定める「所定休日」に勤務させた場合には、50%以上の割増率を適用する必要がある。法定休日と所定休日で対応方法が異なるため、注意が必要だ。

関連記事:『割増賃金とは?残業代の仕組みや正しい割増率による計算方法を解説!』

割増賃金の支払いに代えて付与可能な「代替休暇」を活用しよう

割増率50%の適用で、残業代の支払い額が増えることを懸念する企業は多いだろう。ここでは、残業代を抑制するために有効な施策の一つ、代替休暇について説明する。

割増賃金の支払いに代替できる、「有給の代替休暇」の付与とは
月に60時間以上の残業を行った場合、「有給の代替休暇」を付与することで、割増賃金の支払いを抑制できる。この場合の代替休暇とは、1ヵ月に60時間を超える残業をした従業員に対し、60時間を超える労働時間の割増賃金の代わりに付与する休暇を指す。ただし、制度利用には、労使協定の締結が必要で、代替休暇を取得するかの判断は従業員が行う。労使協定を結んでいるからといって、従業員に代替休暇の利用を義務付けることはできないため注意しよう。

代替休暇の計算方法
代替休暇を活用する場合の時間数は、以下のような計算方法で求められる。

代替休暇の時間数=(1ヵ月の法定時間外労働時間-60時間)×「換算率」
「換算率」とは、「代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金」と「代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率」との差を指す。具体的な計算方法は下記の通りだ。

【計算条件】
<1>残業代の割増賃金率:25%
<2>60時間を超える残業の割増賃金率:50%
<3>その月の残業時間:70時間

この場合、「換算率」は条件1・と2との差分の「0.25」。60時間を超えた残業時間は10時間のため、これに換算率を乗じて代替休暇の時間数を算出する。

【計算方法】
10時間(60時間を超えた残業時間)×0.25(換算率)=2.5時間(代替休暇の時間数)

この場合、2.5時間分の代替休暇を付与することができる。

代替休暇の単位
代替休暇の取得は、原則1日もしくは半日の単位で与えることが定められている。ただし、代替休暇の取得時間が半日に満たない場合や、端数がある場合には、他の有給休暇と合わせて1日または半日の単位として付与できる。具体的には下記通り2つのケースで対応できる。

【計算条件】
・代替休暇の時間数:10時間
・1日の労働時間:8時間

<ケース1>
1日(8時間分)の代替休暇を取得し、残りの2時間については割増賃金で支払う。

<ケース2>
1日(8時間分)の代替休暇と、2時間の代替休暇に他の有給を合わせて半日の休暇を取得する。

(参考:厚生労働省『改正労働基準法のポイント』

代替休暇を付与できる期間
代替休暇は、1ヵ月60時間を超える残業が発生した月の末日の翌日から、2ヵ月間以内の期間で取得させなければならない。代替休暇は、特に長い残業を行った従業員の「休息の機会の確保」が目的とされているため、近接した期間内に付与する必要があるためだ。万一、期間内に該当する代替休暇を付与しきれなかった場合にも、割増賃金の支払い義務はなくならないため、代替休暇の取得希望があった場合には、速やかに付与できるよう注意しよう。また、60時間を超える残業をした期間が1ヵ月を超える場合には、1ヵ月目の代替休暇と2ヵ月目の代替休暇を合算して付与することもできる。例えば、6月に6時間分、7月に2時間分の代替休暇に相当する残業が発生した場合は、8月に8時間分(1日分)の代替休暇として対応できる。

企業には残業抑制への取り組みが求められる

最後に、従業員の残業抑制に向け企業に求められる対応を解説する。

労働時間の把握・可視化
割増賃金率の引き上げ後は、労働時間の把握と可視化がますます重要となる。時間外労働が毎月60時間を超えてしまう従業員が多い場合は、残業代を含む人件費の大幅増加で企業の負担は大きくなってしまう。これを避けるには、労働時間を適正に把握・可視化することで、人員配置や勤務制度を見直すことがポイントだ。まずは、毎月や毎年の労働時間を可視化し、残業が多く発生する月や、部門などの特性の把握に努めよう。

業務効率化を図る
システムの導入や業務のマニュアル化などで、業務の効率化を図ることも重要だ。業務が効率化されることによって、生産性の向上など、残業削減以外のメリットも生まれるだろう。ただし、安易にシステムを導入するのではなく、初期投資費用などのコスト面も考慮し、自社に適した業務効率化方法を検討したい。

また、既に勤怠管理システムなどを導入している場合には、現行のシステムが適しているかも改めて見直すことも重要だ。例えば、自己申告で労働時間を管理している場合は、適切な残業代の支払いができていない可能性もある。働き方改革の観点からも今後ますます残業への対応はシビアになっていくことが予測される。そのため、より厳密に労働時間を管理できるシステムへの移行も含め、検討しておくのがよいだろう。

関連記事:『勤怠管理システムとは?導入するメリット・デメリットと選び方を紹介』

まとめ

2023年4月からは、中小企業にも割増賃金率の引き上げが適用される。まずは自社が適用対象となるのかを確認し、変更内容をしっかりと把握しておこう。また、必要に応じてシステムを検討するなどし、労働時間の可視化や、業務効率化にも取り組んでおきたい。合わせて、残業が多く発生してしまった場合に対応できる代替休暇制度の導入など就業規則の変更も含め、適用開始に向けて早めの準備を行おう。