賃金不払いが疑われる事業場は2万1000件超 厚生労働省発表

厚生労働省は、2023年に賃金不払が疑われる事業場に対して全国の労働基準監督署が実施した監督指導(立入調査)の結果を取りまとめ、是正事例や送検事例とともに公表した。
2023年の賃金不払事案は2万1349件 指導で97.6%が解決
厚生労働省の発表によれば、2023年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数は2万1349件で、前年と比較して818件の増加。対象となった労働者数は18万1903人(前年比2260人増)。金額は全体で101.9億円で、1事案における最大の支払金額は2.3億円だったという。また、このうち97.6%(2万845件)の事業場で、労働基準監督署の指導によって賃金の支払いが行われ、解決に至ったことも報告された。
業種別で見ると、最も監督指導が多かったのは商業の4407件。次いで製造業が4174件、保健衛生業が3261件で続く。
出典元:賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)を公表します(厚生労働省)
監督指導による是正事例
厚生労働省は指導結果とあわせて是正事例も公表している。1つ目の事例は、食料品製造業での事案。月60時間を超える時間外労働に対する割増率が法定割増率を下回っていたほか、割増賃金の基礎として算入されるべき賃金の除外、固定残業を超過した時間への割増賃金の不払いなどがあったという。
月60時間を超える時間外労働に対しては、法定の割増率(50%以上)で計算し、賃金を支払う必要がある。また、割増賃金の基礎として算入しない賃金は「家族手当」「通勤手当」「別居手当」「子女教育手当」「住宅手当」「臨時に支払われた賃金」「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」の7種類のみとされている。これに該当しない「役職手当」や「精勤手当」などは基礎に算入しなければならない。
なお、固定残業代として時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて支給する場合、通常の労働時間の賃金と割増賃金が判別できるよう、就業規則等で定めておかなければならない。あらかじめ含めている割増賃金が、実際の時間外労働等の時間に応じた割増賃金の額を下回った場合は、差額を支払う必要があるため、留意していただきたい。
2つ目の事例は飲食業で、時間の不適正な把握・管理が行われていた事例が公表されている。使用者には労働者の適正な労働時間の把握・記録が求められる。また、着替えや清掃など、使用者の指示による準備・後始末についても労働時間に該当するため、注意が必要だ。

まとめ
2023年の賃金不払事案の件数は昨年より増加しており、対象となる労働者数は18万人を超えた。中には割増賃金の計算方法や法への理解が不足していたという事例もあるのではないだろうか。労働基準監督署からの指摘を受ける前に、自社で適正な賃金支払が行えているか、改めて確認することをお勧めしたい。
2023年4月には中小企業における月60時間を超える残業代の割増賃金率が50%に引き上げられている。オフィスのミカタでは適用開始前に計算方法や代替休暇の制度などを紹介しているので、こちらもあわせて参考にしていただきたい。
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