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「全く価格転嫁できない」企業が依然として1割超【価格転嫁に関する実態調査(2024年2月)】

2024.03.25

帝国データバンク(以下:TDB)は、TDB景気動向調査2024年2月調査と併せて、現在の価格転嫁に関する企業の見解を調査した。ここでは調査結果の概要を紹介する。

調査実施の背景

2024年の春闘において、大企業を中心に多くの企業で昨年を上回る水準の賃上げの流れが生まれている。TDBは、2024年度の従業員の賃上げ率は平均4.16%増と試算し、今後の景気回復には継続的な賃上げが欠かせないとしている。一方で、高めた人件費を適正に商品・サービスへ転嫁することが難しいといった声もあがっているという。さらに、長らく続く原材料価格やガソリン、電気代などのエネルギー価格の高止まりは収益を圧迫し続けており、TDBの調査によると2023年の物価高倒産は775件発生している。一部の価格転嫁だけでは包括できない状況も生まれていると言えそうだ。こうした状況において、価格転嫁の実態を明らかにすべく、本調査を実施した。

出典元:2024年度の賃金動向に関する企業の意識調査(帝国データバンク)
出典元:全国企業倒産集計2023年報 2023年(令和5年) 1月1日~12月31日(帝国データバンク)

調査概要

調査期間:2024年2月15日~29日
調査対象:全国2万7443社
有効回答企業数:1万1267社(回答率41.1%)
出典元:価格転嫁に関する実態調査(2024年2月)(帝国データバンク)

価格転嫁率は40.6%で昨年7月からやや後退

価格転嫁率は40.6%で昨年7月からやや後退

TDBによると、自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているかとの設問で、コストの上昇分に対して『多少なりとも価格転嫁できている』企業は75.0%となっている。内訳としては「2割未満(24.4%)」「2割以上5割未満(15.6%)」「5割以上8割未満(17.1%)」「8割以上(13.3%)」「10割すべて転嫁できている(4.6%)」となった。

他方「全く価格転嫁できない」企業は12.7%に。TDBの前回調査(2023年7月)より0.2ポイント低下したものの、依然として価格転嫁が全くできていない企業が1割を超えていることが明らかになった。

また、コスト上昇分に対する販売価格への転嫁度合いを示す「価格転嫁率(※)」は40.6%となった。これはコストが100円上昇した場合に40.6円しか販売価格に反映できず、残りの約6割を企業が負担することを示している。前回調査(43.6円)から3.0円分の転嫁が後退した。

TDBによると、企業からは「材料費の価格転嫁はスムーズにできたが、経費や人件費の価格転嫁ができていない(機械製造、茨城県)」「ある程度は価格転嫁できたが、エネルギーや原材料の上昇はとどまることを知らず、まったく追いついていない(飲食料品・飼料製造、愛媛県)」といった声があるという。

※価格転嫁率は、各選択肢の中央値に各回答者数を乗じ加算したものから全回答者数で除したもの(ただし、「コスト上昇したが、価格転嫁するつもりはない」、「コストは上昇していない」、「分からない」は除く)

『運輸・倉庫』の価格転嫁率で低水準続く

『運輸・倉庫』の価格転嫁率で低水準続く

TDBは業種別の価格転嫁率について、価格転嫁率が高い主な業種では「化学品卸売(62.4%)」や「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売(60.6%)」などで6割を超えたことを明らかにした。低い業種では一般病院や老人福祉事業といった「医療・福祉・保健衛生(13.0%)」や、「娯楽サービス(17.1%)」「金融(18.2%)」などで2割を下回っている。

また、サプライチェーン別の価格転嫁動向としては、前回調査と比較して、川上・川下業種を問わず価格転嫁率は後退しているという。そのなかでも『卸売』と比較し『製造』や『小売』では価格転嫁が進まず厳しい状況となっているようだ。

さらに、サプライチェーン全体に関わる『運輸・倉庫(27.8%)』は価格転嫁の進展がみられるものの、依然として2割台にとどまっており、企業からも「荷主からの二次請け三次請けが普通であり、荷主に対し直接値上げ交渉ができない(運輸・倉庫、福岡県)」といった声が寄せられているという。

まとめ

本調査によって、自社の商品・サービスのコスト上昇に対して、7割を超える企業で多少なりとも価格転嫁できていることが明らかになった。しかし、その価格転嫁率は40.6%と前回から3.0ポイント後退し、依然として企業負担は6割近くにのぼっている。TDBはこうした結果について「人件費など目に見えにくい単価の上昇分を、いかに見える化して説明するかへと価格転嫁のステージが変わってきたことを示唆している。企業には適正な価格転嫁の推進と同時に物価上昇を超える継続した賃上げの実現、政府には減税など消費者の所得増大に資する抜本的な変革が早急に求められている」とコメントしている。

中小企業庁は適切な価格転嫁を実現するためには、思い切った価格交渉が必要であるとして、価格交渉ハンドブックや価格交渉の根拠材料となるデータベース等を公開している。併せて参考にしていただきたい。

参考:価格交渉・転嫁の支援ツール(中小企業庁)